こちらの独(→)←伊の続きになります。
 てなわけで、リンク先からの閲覧をオススメします。





 みなさんこんにちは。パスタとトマトはお口の恋人、イタリアです。
 この度、まぁ、なんていうか、ぶっちゃけ失恋しました。


 ・・・・・はぁ。なんかもう、帰って思い切り泣きたいのに、なんで俺こんなとこに居るんだろ。


「イタリア?どうした、飲まないのか?」

 騒がしいビアホールの中。
 俺がついたため息なんて、どこかの席の乾杯でグラスがぶつかる音にかき消されたと思ったのに、向かいに陣取ったドイツはそれを律儀に拾い上げて、俺の前に差し出した。
 
「いやあのうん、落とし物は落とし主に、ですよねわかりますあはは」

 ため息とかそういう落とし物は落としておこうぜドイツさんよ。
 力なく笑うしかなくて、誤魔化すようにぐい、とビールを煽った。

「・・・どうしたんだ、さっきから。ーーその、突然呼び出したから、怒っているのか・・?」
「いや、そうじゃないんだけど、なんていうか、さ」

 はぁ。

 心配そうに自分をのぞき込んでくる瞳を直視出来なくて、またため息が出てしまう。
 そのため息を、今度は斜向かいのフランス兄ちゃんがレシーブ。(いやだから落としておけってば)

「こらイタリア〜。ため息つくと幸せが逃げちゃうんだぞ?」
「・・・逃げちゃったからため息ついてんだってば」
 
 ぽつりと漏らすと、目の前の二人が驚いた様に動きを止めた。

「えーー」
「何だ、何かあったのか?」

 と思ったら、もの凄い勢いで心配される。
(ドイツはこういう時本気で心配してくれるもんね・・・俺が、友達、だから)

 心の中で呟いた台詞に、胸が痛むのを感じた。
 その胸の痛みをかき消すように、ビアグラスに半分ほど残っていたビールを、一気に飲み干す。

「お、おい、イタリア無理するな」
「折角来たんだから飲まなきゃ損だろ?ーーあ、お姉さんビール1つ!」

 すぐ行く、というお決まりの台詞を残して去っていった店員を振り返る事もせず、俺はフランス兄ちゃんの前に置いてあったグラスに手を伸ばした。

「あっこらイタリア!それ俺のーー」
「うっさいフランス兄ちゃんはワイン飲んでればいいでしょ。俺今日は飲むって決めたの俺今日は可哀想だからいいの!」
「だから、何があったんだイタリア。可哀想って」


「失恋した」


 何だ、と続きそうなドイツの台詞を遮ってきっぱりと言ってやると、二人の目が丸くなる。

「な・・・何だと?」
「だーかーら、失恋したの。いつものナンパとかそういうんじゃなくて、本気ですごくすごくすごーく心の底から好きだったのに、相手は他の人に恋してたの。俺の気持ちは一方通行で行き止まりで通行止めだったの。なのにドイツは恋って楽しいとか言っちゃうし、フランス兄ちゃんはどっかのまゆ毛と電話して楽しそうだし、ホント何で俺ここにいるんだろ。と考えた結果、飲むためだという結論に達したわけですよ。あんだすたーん?」

 少し青ざめた顔で黙り込んでしまったドイツと、何故かもの凄く気まずそうにおろおろしている兄ちゃんを眺めながら、俺は手にした兄ちゃんのグラスを煽った。

「もー、そんな辛気くさい顔するなよ!今日は飲むぞー!二人の幸せオーラ吸い取っちゃうぞー!」
 わはー、と何時も通りを意識して笑ってみせると、丁度いいタイミングでお姉さんが新しいグラスを持ってきた。

「ホラ乾杯しよーよ乾杯!」
「し・・しかしイタリア」
「ドイツ、乾杯だ」
「フランス!」

 心配そうな顔を続けるドイツに、フランス兄ちゃんが何やら耳元で囁いた瞬間、ドイツの目尻が少し紅くなった。

 ・・・・・・気に入らない。

「そ、そうだな。よし、イタリア今日は飲め!」
 
 突然態度を変えるそのきっかけを作ったのがフランス兄ちゃんっていうのも、気に入らない。


「そういえばねぇドイツ、ドイツの好きな人ってどんなひとー?聴かせてよねぇ、幸せな人の話聞くと幸せな気持ちになるだろ?」
 話題と気分を変えようと笑って言うと、ドイツは少し紅くなった顔で「そ、そうだな」と話し始めた。

「まず、なんというか・・・その、元気だ」
「・・・ふぅん?」
「感情が豊かで、良く泣くが芯は強くて、良く笑う。料理も美味いし絵も得意で」
「へぇ・・・かわいい?」

「それは、もう」

 そう、答えたときのドイツの顔が、本当に甘くて優しくて格好良くて。

「そ・・・そっか、そんなに良い子ならドイツが惚れちゃっても仕方ないよねドイツの恋にかんぱーい!!!」

 あぁ、気に入らない。



 気に入らない気に入らない気に入らない手に入らない泣きたい!



 イライラとかもやもやとかそういったモノを全て洗い流すように、俺は自分でも早いな、と思うスピードでとにかく飲んだ。
 口に何か入れていないと、色々とんでもない事を言ってしまいそうで、怖かった。
 飲んで飲んで飲みまくって、アルコール作用で何度も小便に行って、トイレからの帰りにテーブルの角で腰骨を強打して蹲った所で、流石にドクターストップ。

「・・・大丈夫かイタリア」
「ヴェェェェ・・・ 痛いよぉ・・・」
「あー・・・お兄さん今から帰るけど、お前はどうする?」

 タクシーを呼ぼうと携帯を取り出した兄ちゃんに、ドイツが返事をするより早く、口を開く。

「えへへー俺もう歩けないみたい。・・・ドイツん家泊めて?」

 笑って見上げる、俺のお願いに彼が弱い事なんてとうの昔から知ってる。

「お前、いやでも、あー・・・」
「ドイツー・・・ねぇ、だめ?」
「泊めてやれよドイツ」
「おまっフランス!」
「やったードイツん家にお泊まり!」
 どさくさに紛れてムキムキにぎゅ、と抱きつくと、「あーもう、勝手に決めるな!」と呆れたような声が頭上から降ってきた。

 その声と、ムキムキの暖かさとに、また涙が出そうになって思い知る。


 ・・・あぁ、俺、ホントにドイツが好きなんだ。


 俺以外のヒトに恋してるドイツに、初めてを捧げても良いくらい、好きなんだ。


 ねぇ、ねぇドイツ。俺、こんなにこんなにこんなに、お前の事好きなんだから、さ、






 ドイツの初めて貰ったって良いと思うんだよね。






 心が貰えないんだから、せめてそのくらい俺にくれよ。







 
 
 そう、思いついた瞬間、身体が熱くなるのを感じた。
 ドイツに気付かれないようにさり気なく身体を離して、タクシーに乗るフランス兄ちゃんに手を振る。
 
 タクシーを見送って、「帰るか」と差し出された腕に支えられながら、俺はドイツの家に行ってからの事をずっと考えていた。




















「ーーーただいま」
「わはー* おじゃましま〜す」

 玄関で挨拶したドイツにつられて俺も挨拶してみたけど、家の中から返事はない。

「あれ、プロイセンはー?また居ないの?」
「・・・兄さんは、一昨日からまたどっか行った」
「・・・・・そう」
 じゃあ今この家、俺とドイツの二人だけかぁ。

 くす、と笑って呟くと、俺の声音がいつもと違うのに気付いたのか、ドイツが驚いた様に振り返って俺を見た。
 そのムキムキが、体重を預けてもびくともしないものだなんてとうの昔に検証済みだ。

「こ、こらイタリア。寝るなら部屋に入ってからにしろ」
「えー」
「えーじゃない。ほらあと少しだから、しゃんと歩け」
「ねぇドイツ運んで〜」

 首に腕を回して鎖骨の辺りにすり寄れば、ドイツは顔を紅くしながらも俺を抱き上げてくれる。

「わーいこれ、お姫様だっこだね!えへへ」
「うるさい暴れるな落とすぞ!」

 まったくこいつは人の気も知らないで、と呟く声が優しく耳をかすめる。

(当たり前じゃん、ドイツの気なんか知らないし知りたくもないよドイツが誰を好きかなんて、さ)


 
 ドイツの家に泊まるときは最近はもうドイツの寝室で一緒に寝るようになっていたから、今日もそっちかなと思ったのに、ドイツの足取りは寝室の扉を通りすぎた。
 そして降ろされたのは、客間の整えられたベッドの上。

「・・・ドイツ?」
「ーーーその、水を持ってくるから」
 ちょっと待ってろ、と言い残して背を向けたその背中が、部屋を出て行くことは無かった。
 
 俺が握りしめたドイツの背中のシャツをひっぱると、ドイツが背を向けたまま2,3歩近付いて、困ったように振り向く。

「イタリア、離してくれ。水を採りに行けないだろう」
「水なんかいらない」
「だがお前、相当飲んでいたしーー」

 言いつのろうとするドイツの、振り返ったことで手が届くようになった襟元を掴んで引き寄せ、ベッドの上に膝立ちになって、唇を重ねた。

「ーーーーーっいたりあ!」
「ねぇドイツ、俺失恋したんだ」
「それは、分かっているが、それとこれとーー」


「すごくすごく哀しいの。・・・ねぇ、慰めてよドイツ」


 息を呑んだドイツの呼吸の音が聞こえた気がして、それに続く否定の言葉を聞くのが嫌で、俺は再び口づける。

 批難の色が浮かんだだろうドイツの目が見えない様に目をつむって、予想よりも柔らかいドイツの唇の感触を、脳裏に刻みつけた。


 
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