ベッドの上で、『慰めて』なんて囁いて、キスをして。
 正直いくら鈍くてもこれは誘われてるって気付くと思うんだ、けど。

 
 キスの後、ぎゅって抱きしめられて、やったね、と思ったのもつかの間。

 ドイツの大きな手が、俺の頭を優しく撫でた。


「あー・・・なんだ、その、泣きたければ、泣け」


 困ったような声は、何時も通りのそれで。

「・・・・・どいつ?」
 うそだろ何その鉄壁の理性ありえなくない!?

 思わずぽかん、として名前を呼ぶが、優しく頭を撫でる手は相変わらずで。

「な、慰めると言っても、俺はそういうのは得意じゃないんだ。だから、泣きたいだけ泣け」

「なーーー」
 俺は泣きたいんじゃなくて鳴きたいんだってばもう泣きたい!!!


 あれ、結局泣きたくなってきたぞおかしいなあはは、大体なんでこいつ気付かないの鈍すぎんじゃないの分かってよ友達だろ!?
 ってトコまで考えて、俺は思いきり頭を殴られた様な気がした。


 ともだち、だから、か。



「・・・ねぇドイツ、俺たちって友達?」
「もちろんだ」

 即答か。そうか友達か。
 友達じゃあキスされてもそんな気にはならない、のか。
 慰めてって言ったら優しく話を聞くのが友達、だからか。

 俺じゃ、ダメなのか。

「・・・ドイツは、なんでその人のこと好きになったの」
「・・・イタリア?」
「なんで好きになったの。ドコが良かったの?答えてよドイツ」
 
 それが、俺にはどうしても無理な事だったら、少しは諦められるかも知れないけど、もし俺にも出来ることなら。

「ーーー初めて会ったとき、俺はそいつに結構キツイ事ばかり言っていた。それなのにそいつは、友達になりたいと言ってくれたんだ。俺は見ての通り険しい顔をしていることが多くて、よく怖がられるのに、そいつはどんなに厳しい事を言っても笑ってそばにいてくれた。俺のものとは意味合いは違うが、友達としてでも、俺を好きだと、言ってくれた。それだけで十分ーー」
「なにそれ!なんだよそれバカじゃないのドイツ!!」

 我慢できなかった。

 友達になりたいって言ってくれた?

 怖い顔にびびらずに側で笑ってた?

 好きだと、言った?


 ーーーーーーーーふざけるな。



「そんな事俺がいくらでもしてあげる!大体そいつ今いくつか知らないけど、俺の方が絶対早かった!ドイツに友達になって、って言ったのは絶対俺の方が早かった!俺、ドイツの顔好きだしドイツが厳しいこと言うのも相手の為を思ってだって知ってるから絶対ドイツの事嫌いになんかならない!友達としてでも好きって言った?バカにすんな俺は友達としての好きなんか通り越して愛してるのに!」

 驚いた顔のドイツの肩を、指が食い込むくらい握りしめて、俺は泣きながら叫んだ。
 もう、これで終わりかも知れないけど。
 そんなヤツに俺の気持ちが負けてるだなんて、絶対認めない。
 最後の最後に、全部ぶちまけてやるんだ。


「なんで俺にくれないんだよ!そんなヤツより絶対俺の方がドイツの事好きなのに!!なんでそいつなんだよ!?」



 俺を、見てよ。
 抱きしめてキスしてエッチして名前呼んで、ねぇお願い。


 ドイツの心を、俺にちょうだい。



 言い終わると同時に俺の頬をつたって落ちた涙が、シーツに染みを作った瞬間。


「ーーーぅわ!?」

 世界が、回った。






「ぅんっーーーは、どい、つっ・・!」

 何で。
 何で、さっきは何も答えてくれなかったのに、こんなーー全てをかっさらうような、キスを。

 同情か。憐れみか。でも俺の知ってるドイツはそんな事をするヤツじゃない、ならどうして。

「ーーイタリア、今のは本気か」

 ようやく開放されて、肩で息をつく俺を、ドイツの真剣な目が射抜いた。
 訓練でも見たことのない、熱い視線に、背筋が震えるのを感じる。

「本気だよ。ドイツが他の誰かを好きだとしても、俺はドイツが好き。・・・ねぇ、何で俺じゃダメなの」
「お前だ」

 くしゃりとまた泣きそうに歪んだ顔で聴いた質問への答えは、ヒトコトだけ。
 でも、えーと、それ、意味が分からないんだけど、な?

「・・・・は?」
「俺が好きなのは、お前だと言ってるんだ。お前じゃダメなんじゃなくて、お前じゃないとダメなんだ。・・・イタリア、聴いてるのか?」

 あまりにも都合の良い台詞が聞こえた気がして、ぱちぱちと瞬きしてみたりしていると、むに、と頬をつねられた。

「え・・・ウソ、何て・・・?」
「本当だ。偽りはないし、同情でも友愛でもない、お前が言うのと同じ意味で、お前が好きだと言っている」

 ドイツが、俺を好きだという。
 滅多にない程真剣な顔で、俺が良いんだという。
 でも、でも、

 ドイツには、好きな人が居て。
 恋って楽しいって笑っちゃうくらい、恋してる人がいて。

 その、ドイツが、俺を、好きだとーーーー



「ーーーーー俺か!!!??」
「うぉっ!?」

 思わずがば、っと押し倒されていた上半身を腹筋で跳ね上げると、押し倒していたドイツが素早い動きで頭突きを避けた。
 その反射神経は流石だが、今はそれより大事なことがあるわけで。

「ドイツの好きな人って、俺なの!?」
「だから、さっきからそう言ってるだろう」
 
 ちょっと待てよ。だってドイツの好きな人って、


 元気で。ーーー俺はまぁ、元気が取り柄だとオーストリアさんにもよく言われるけど。
 感情が豊かで。ーーーそう、よく日本が言ってくれるけど。
 良く泣いて。ーーーそう言えばドイツに初めてあったときも大泣きしてたけど。
 芯は強くてーーー・・・俺弱いからそこは置いといて。
 良く笑うーーーのは、良いことだってフランス兄ちゃんが誉めてくれた。
 料理が美味くてーーー好きだし、ドイツの為だと思うとつい気合いが入っちゃうよね。
 絵も得意でーーーうんまぁ、ドイツも俺の絵好きだっていってくれるし、


 と、いうことは。
 友達になりたいって言って、ドイツの側でよく笑って、ドイツに好きだと言ってる、ドイツの好きな人は、




 俺、か。




「・・・・・!!!!」

 チーン、
 トースターみたいな音と共に結論が出た途端、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。

 嬉しくて、恥ずかしくて、幸せで、どうして良いのか分からなくて、紅い顔のままドイツを見上げると、


「ホラ、だから言っただろ」

 くす、と笑って触れるだけのキス。
 これまた言葉の意味が分からず「?」という顔をしていたら、ドイツが甘くて優しくて格好良い微笑みを浮かべて、言った。


「俺の好きな人は、かわいいって言ったよな?Mein Suesser」


 甘い声と一緒に降ってきた口づけは、今までドイツが作ってくれたどんなお菓子よりも甘く。

 天にも昇る気持ちって、こういうのを言うのかな。

 そんな事を考えながら、俺はうっとりと目を閉じた。

















 そして、まぁ何て言うか、結果からいうと、その夜は結局、しなかった。
 飲んで泣いて叫んで考えて疲れ切った俺が、ドイツに抱きしめられたまま寝ちゃった所為だ。

 次の日の朝起きたときに目の前にあったドイツの顔に、「あぁ、夢じゃないんだ」ってわはー*って笑って、ドイツおはよ、ってキスした瞬間のドイツの微笑みを、俺は死ぬまで忘れないと思う。


 ・・・・・あれは、エロかった。


「おはようイタリアよく眠れたか、それは良かった。さて俺は昨日の今日で一睡も出来ていないんだが覚悟は出来てるよな、そもそも誘ってきたのはお前だったしな」

 なんてエロさ満開の笑顔で言われて、ヴェ、の一言しか返せなかったのは仕方ないと思うんだ。
 それから結局午前中いっぱい、俺はドイツに攻められまくって喘ぎっぱなしだった。

 昼前になって、「も・・無理・・!」ってぐったりなった所で、ドイツはようやく開放してくれて。

「ヴェ・・み、水・・」

 すっかり掠れた声で言うと、ちょっと待ってろ、と言ってドイツは水をとりに部屋を出た。
 さっきまでぴったりくっついてた温度が無くなると、部屋の中とはいえ少し肌寒くて、けど掛け布団をとろうという体力は残って無くて。

 うぅ、ケツ痛い腰痛い喉痛い、でも。

 戻ってきたドイツに抱き起こされて、水を飲ませて貰って。

「・・・ね、ドイツ、しあわせ?」
「もちろん」

 即答されて、ぎゅってしてもらったら、身体の奥からわき上がってくるこの気持ちは、


「俺も、俺もね、すげーしあわせ!」


 窓から差し込む日差しは、まるでドイツの髪みたいに金色に輝いていた。


 

 おしまい。  



 わはー。両思いになる瞬間大好き・伊都ですこんにちは(突然それか)。
 結構前に書いていたお話の続きになりましたが、片思いっぽいままだったイタの事が、ずっと気になってて、いつか続き書きたいなーと思ってたので、無事両思いになれて良かったです。
 いつぞや「続き読みたいですー」と言ってくださった方、ありがとうございました!

 あ、最後に。ベッドシーンすっ飛ばしたのは伊都がチキンだからですスミマセン(脱兎!)

 2009.11.6(三周年!) 伊都
 ブラウザ閉じて戻ってクダサイ。