え、あれ。




 ・・・・どういう状況だコレ?




 ぽかん。と口を開けた俺の目の前で、綺麗な金色が笑った。












 その日は、めずらしく一日ドイツと会わずに過ごす日だった。
 顔を見るのが当たり前になっていた日常で、親友に会わずに過ごすというのは、少し寂しい気持ちのするものだ。
 それでも、仕事はやってくるし、お腹もすく。

 いつも通りパスタを食べて、たまった書類に目を通し、かかってきた仕事の電話に対応して、シエスタを貪って。

 気が付くと、一日がおわろうとしていた。




「・・・なんか、あっという間ではあったけど」


 味気ない一日だったなぁ。




 ぼぉっとテレビを見ながらそうつぶやいたのと同時に、




 ヴェー ヴェー ヴェー 



 机の上に置いていた携帯がその存在を主張しだした。

「また仕事・・?もう11時過ぎてんじゃんカンベンしてよ・・・」

 げっそりとつぶやき、暫く放置してみる、が。


 ヴェー ヴェー ヴェー ヴェー   


 バイブレーションは諦める気配がない。



「あーはいはい解ったよ・・とればいいんでしょとれば」


 ぶちぶちと文句をたれながらソファーを後にし、手に取った携帯を見れば。


「なんだ、フランス兄ちゃんかぁ」


 着信表示に見えた名前に、仕事でないであろうことを喜んで電話をとる。





「もしもし?」

『よぉーイタリア元気かー?つーかとるの遅くねぇ?』

   もうよい子は寝ちゃったかと思ったぜあっはっは、と笑う声は、普段の彼からしてもテンションが高いソレで。

「フランス兄ちゃん・・酔ってる?」

 多少げんなりした声でそういうと、『んーそーとも言うー』と楽しそうな答え。

「もー・・誰と飲んでるの?ていうか何かあったの?」

 そう尋ねた、瞬間。


『コラフランスお前誰に電話してるんだ』


 ーーーあ。


「ドイツ」


 携帯の向こうから聞こえた声に、思わず機械を耳に当て直す。


『えーなに良くわかったなぁ!声きこえた?』
「え、あ、うん。ドイツと、飲んでるんだ?」

 なぜかどきりとした胸をおさえて、なんとか普通に言葉を返した。
(なんか、ドイツ声楽しそう・・)

『ぴんぽーん♪ でさイタリアお前今ヒマ!?』

「・・・へ?あ、うん。もうあと寝るだけ」
『じゃあ来いよ!』

 出ました秘技・酔っぱらいによる招集。

 正確に言うと、『酔っぱらいの、酔っぱらいによる、暇人の、招集』なんだけれども、正直今はそんなことどうでもいい。

「来いよって・・俺もう寝る気だったんだけど」
『えーいいじゃねぇかちょっとくらい。今来たらマジ面白いもんみれるぜ!?』
「面白いもの?」
 なにそれ、と言おうとした矢先。

『おいちょっと代われ』

 聞き慣れた、だけどどこか聞き慣れないトーンの声が遠くでして。

『ーーイタリア?』

 次の瞬間、耳のすぐ近くで響いたバリトンに、ぞくりと背筋が震えた。

「ーーあ、うんドイツ?」
 なんとかそれだけ返す。
 心臓が、何故かもの凄く早い。

 ドイツも酔ってるのかなでもドイツだしきっと「フランスが無理言ってすまないな、気にせずに休め」とか言うんだろうなうん、だってドイツだしでもなんかいつもと声の雰囲気が違ーー

 そこまで考えて、聞こえてきた台詞に頭が真っ白になった。



『イタリア、来いよ。今ものすごくお前の顔が見たい』



「・・・・・・いきます」



 それからどうやって家を出たのか、正直よく覚えてない。

 とにかくドキドキして、(顔が見たいって言って貰えたのが嬉しいなんて、流石親友、威力がちがう)とか考えながらタクシーを拾った。












 何度か行ったことのあるビアホールの前で、見慣れた金髪二人組を見つけて近寄った、所まではまぁ普通だった。


 問題は、そのあと。




「ーーーイタリア!」


 もの凄く嬉しそうに満開の笑顔で俺に手を振ってきたのは、フランス兄ちゃんじゃなくて。





 つまり、もう一人の。 ドイツだった。




ーーっていうかどうしたのこの人笑顔満開とか初めて見たんですけどうわぁうわぁ俺!?俺に手ぇ振ってんの!?

 思わず真っ赤になった顔を自覚しながら、その珍しい笑顔を凝視したまま固まっていると、動かない俺に向こうから近づいてくる。

「どうした?体調が悪いのか?」

 菫色の瞳が心配そうにのぞき込んでくるのも、いつもより距離がちかくて。


「っだ、大丈夫!その、えーと、ドイツが凄く楽しそうだから、びっくりして」

 言いながらちらりとドイツの後ろの人影に助けを求めるが、そちらはそちらでナニやら酷く楽しげに電話中で。

(〜〜〜この酔っぱらいが!!)

 顔は紅いし、心臓はドキドキがとまらないし、親友が楽しそうなだけでなんでこんなに動悸がすんの!?
 と自分で自分が解らなくなって、パニックになりかけたところで。


「楽しそうか?そうか、うん、楽しいな。いやどちらかというと嬉しい、かな」

 あいかわらず上機嫌に目の前の人物が言うので、

「そ・・そうなんだ。何か嬉しいことがあったの?よかったねドイツ」
(俺は、今日一日ドイツに会えなくてつまんなかったのに。ーーなんか不公平じゃない?)

 軽く何処かに行きかけていた気分が、戻ってきてついでにちょっと沈んだのを感じる。


 それも次の瞬間、また吹っ飛んだのだが。





「嬉しいさ。今日はイタリアに会えないと思ってたのが、最後にこうして会えたんだ」


 台詞もさることながら、その行動に、俺は本気で目をむいた。



 ひょい、と。

 まるで子供を相手にするかのように、俺の手を取って。






 ドイツが、俺を抱き上げた。






 さっきよりぐっと近くなった顔の距離。

 いつもは見上げる菫色が自分を見上げて、その端には、ふくらみ始めた上弦の、月。




「ど・・ドイツ!?」
「ははっ!イタリア、楽しいか?俺は凄く楽しい」

 視線の先で笑うその顔は、いつもより幼くて。


(なんか、うん、酔っぱらいなんだけど。所詮酔っぱらいなんだけど・・)


 なんか、かわいい。


「ふふ」
 親友の新たな一面を発見してしまいましたタイチョー!

 自分よりも8センチも背がたかくて、ムキムキで、たよりになる親友が、可愛いだなんて。
 なんだか嬉しくなって、思わず笑ってしまう。


 大の男がだっこされて笑い合ってるなんて、普通だったらあり得ないけどまぁいいや酔っぱらいだし。
 周りも全然気にしてない。

 でも、このドイツの笑顔は他の人にはみせたくないなぁ・・

「よードイツ、よかったなイタリアが来てくれて!」
「っフランス兄ちゃん!」

 色々考えながらぼぉっとしていた所に突然かかった声に、思わず肩がはねた。

「あぁ、きてくれてありがとう、イタリア」
「ーーーどっ、どういたしまして」

 だからさっきからその笑顔は心臓に悪いって!!

 言うに言えない言葉を飲み込んだのと同時に聞こえた台詞に、心臓が、さっきまでドクドク言ってた心臓が。





 とまった様な、感じがした。







「やっぱいいなー恋ってやつは!なぁドイツ!」

「あぁ。お前が前から言ってたのがようやくわかった。恋は楽しい」


「こ・・・・・」


 恋、


 コイシテルンデスカ ドイツサン。










 だれに、 とか。

 いつから、 とか。

 その笑顔はその所為か、 とか。


 訊きたいことはいろいろ、本当にいろいろ、あるのだけれど。




 一番訊きたいことは、絶対にきけない。






 ーーどうして。
 親友の恋は応援しないといけないのに、どうして。





 こんなに、胸がいたむのですか。






 絶対応援とかできない。そう、思う、俺がいるのですか。










(答えは、自分でもわかってるけれど。正確には、今、解ったんだけど)




 とりあえず、このまま心臓とまっちゃえば楽なのに。






 ドイツに抱き上げられた姿勢のまま、俺は半ば本気でそう思った。








 恋が切ないと、すぐ側で、気付いたあの夜。



 FIn.

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

水晶Kさんの名曲を聴きながら、この絵を描いてたら出てきた独←伊。
まぁいわずもがな独の恋の相手は伊なんですが。(笑)
上機嫌で恋って楽しいなとか言っちゃう独が見てみたかったのです。
見てみたかったから描いてみた(&書いてみた)けど、なんかものすごく

む ず む ず し ま  し   た   (爆)

しっかしあの曲は伊都的に究極の萌えBLシチュを具現化した、名曲中の名曲です!(*´д`*)
聴く度ににやにやして止まらなくなります(通報されるぞ)


09.04.28 伊都