こちら の転生ネタの普日バージョンです。 CPは普日で、日が女の子です。 女体化ダメ、絶対。という方はこの場でリターンプリーズ。 女体化オッケーどんどこーい、な素敵なお方は↓よりどうぞ* 2 普と日 3 普と日 (一応完結済み) |
「あぁもう、何やってるんですかルートヴィッヒさん…!!」 うららかな春の日差しがさんさんと降り注ぐ公園の、植え込みの影。 もどかしげに呟いた少女の目線の先には、10メートル程離れたベンチに一人で座り、泣きそうな顔をしている友人がいた。少々離れているため、その細かな表情までは見えないが、俯いて膝の上の荷物を撫でるその頭のくるんとした毛までもが、しゅん、とうなだれている。 (会って一発抱きしめるまではいい流れだったのに…一体何処行っちゃったんですかあのひとは!!) 自分にとっても旧友である人と、かけがえのない友人の恋路を見届けようと出歯亀しに来たのだが、出歯亀である自覚があるため、出て行って慰めるわけにもいかず、菊乃はギリギリと目の前の植え込みの枝を握りしめた。 「あー、ありゃ花屋だな。あと二分もすりゃ花束持って帰ってくるぞ」 「ーーっ!?」 突然頭上からかけられた声に、びく、と肩を揺らして振り返れば、そこには先日旧友の情報をくれた男が立っていて。 「ちょっと、見つかるじゃないですか、しゃがんでください!」 「お、おぅ」 有無をいわさぬ菊乃の迫力に、ギルベルトはおとなしく植え込みの影に収まった。 「で、お前は覗き見か?」 「出歯亀と言ってください。ここまで来て見届けないなんて選択肢はないですからね。あの二人には昔から幸せになって欲しいと思っていたっていうかもうホントさっさとくっつけよお前ら結婚しろ、という心情で」 「そういうの、日本語で老婆心って言うんだろ」 「よくご存知で」 「否定はしねぇのかよ、相変わらずだな」 思わず漏れた男の笑みを、菊乃は視線の端に写し、すぐにベンチに視線を戻す。 「先ーー先輩、は、この記憶が有るの、嫌だと想ったことはないんですか」 「ん?」 まっすぐに前を見たままつぶやかれた台詞に、男は頷きだけで続きを促した。 「私はーー物心ついた時、すごく嫌でした。国だったころは、イタリア君やドイツさん、他の国の皆さんとも、沢山お話して、一緒に訓練したり、ふざけたり、お祝い事では皆集まって、わいわいしていたのに…人間の私、本田菊乃のまわりには、大事な友人だった人たちは誰も居ない。隣国ですら海を超えなければいけない。ましてやヨーロッパなんて、飛行機で13時間とかふざけてるんですか遠すぎでしょう、という感覚で」 「…まぁ、アジアは遠いな」 「それなのに、行ったこともない街の風景が、記憶の中には鮮明に残っているんです。国内でさえ、初めて行くはずの所で、ものすごいデジャヴに襲われる。小学生の頃よく気が触れなかったものだと思いますよ。そのうち、この記憶が本当なのかどうか、確かめるために渡欧するのが目標になりました。だから大学ではイタリア語を専攻して、こうやって話す分にはーーーっ帰ってきた!!」 滔々と語られる少女の声に耳を傾けて居た男は、突然中断された話に思わず少しつんのめる。 「うわ、本当に薔薇の花束買って来てる!さすがですドイツさん!!わ、わ、膝ついてプロポーズとか、凄い、え、ちょっとフィーさん!?ど、どうしちゃったんです!?」 「なんか倒れたみたいだけどよ、あいつに任せておけば大丈夫だろ。とりあえず落ち着けよ菊乃」 まずはその木を鷲掴みにしてる手を離せ、怪我すんぞ。そう言って目の前の黒髪に覆われた後頭部に手を伸ばした瞬間。 「!?」 「うぉ!?」 勢い良く振り向いた拍子に、その肩まで伸びた髪が、ぴしぴしと手をかすめた。 「い、今、なまえ」 大きな黒い目を見開いてそううわ言の様に言う少女に、男は紅い瞳を瞬かせる。 「な、名前がどうかしたか?」 何が問題なのか、さっぱりわからずじっとその黒い目を見ると、みるみるうちにその頬が赤く染まり、 「〜〜〜っなんでも、ありません!」 ちら、とベンチの方を確認して、勢い良く横をすり抜けようとしたその小さな身体を、とっさに伸ばした足で引っ掛けて抱きとめると、腕の中から驚きと抗議の声が上がった。 ベンチでは、従兄弟が想い人を介抱している。あの様子ならまず問題ない、と判断して、青年は腕の中の少女ごと立ち上がる。 「ほれ、あいつらならもう心配ねぇだろ、どうせ見てても砂吐くだけだぜ」 「ちょ、離してください!どこに行くんですか!」 小声ながらも強い口調で抗議する相手の、逃げられないように掴んだその手首の細さに、ギルベルトは二つ瞬きをして、苦い笑みを口に浮かべた。 「わりぃ、痛かったか?…そうだよなー、今はお前女の子だもんなぁ。でもまぁ、根っこは変わってねぇみたいで安心したぜ。ちょっと色々話してぇ事もあるからよ、付き合え」 「……まったく、私に女性のエスコートを指導した先生とは思えない誘い方ですね」 包み込むように握り直された左腕をちらりと見やった少女は、それでも振り払うこと無く男の隣に並ぶ。 「お好みなら今からでも、俺様が完璧にエスコートしてやるぜ?」 「やめてください恥ずかしい。そういうの苦手だって、知ってるでしょう」 「今も苦手ってのは、今初めて知ったな。まぁその変のこととかさっきの話の続きとか、色々聞かせろよ」 「…美味しいレモネードで手を打ちましょう」 「りょーかい」 久しぶりの気のおけない相手との会話は、涙が出るほど心地よい。でも、それを素直に顔に出すのは、どうにも気恥ずかしい。そしてその事までもが、はるか昔、師と仰いだ相手には見通されている様で、結局どんな顔をしていいのかわからず、憮然とした顔を作ってみせる少女を伴って、上機嫌な男は日のあたる公園を後にした。 戻る |
『おや、バイルシュミット君じゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね』 ある日の放課後、川沿いのカフェで大学の事や、共通の友人ーーあれからトントン拍子に婚約にこぎつけた二人の事を話していた所で、突然聞こえたドイツ語。名前を呼ばれた男とともにそちらを見やると、壮年の品の良い男性が立っていた。 『教授!どうなさったんですか、こんな所で』 「!?」 座っていた連れが勢い良く立ち上がった事よりも、その口から出た言葉が、菊乃を唖然とさせた。 『いや、学会で妻と来て居てね。もしかしたら会えるかもしれない、とは思っていたんだが、実際会えるとは驚いたよ。元気にしていたかい?』 『ええ、今は留学生の世話係の様なこともしているんですよ。先生の所で研究していたのも、もう二年前になるんですか…昨日の事みたいですけど、早いですね。皆さんお元気ですか?』 『皆変わらずやっているよ。その小鳥も元気そうじゃないか。その子が恋しい、と言う話も時々出るくらいで』 『何故そこでこいつなんですか!自分のことも懐かしんで下さいよ』 『はは、冗談だよ。まだ暫くはこっちに居るんだろう?』 『ええ。また実家に帰った時にはご挨拶に伺います』 『待ってるよ。あぁ、妻が店から出てきた。これから荷物持ちの任務が私を待っているから、そろそろ行くよ。お連れさんには申し訳なかったね。パートナーかい?』 『残念ながら現在絶賛攻略中です。でも年季が入ってますからね、絶対逃がしませんよ』 『おぉ、珍しく本気じゃないか!検討を祈るよ』 『ご声援ありがとうございます』 ぽかんとしたままの菊乃の目の前で、二人は硬く握手を交わして別れの挨拶を交わす。 菊乃に向かってウィンクを一つ放って去ってゆく男性を見送って座り直したギルベルトは、目の前の少女の顔を見て思わず顔をひきつらせた。 「な、なんだ?その顔」 「…失礼ですけど、貴方本当に、ギルベルト・バルシュミットーープロイセンくん、ですか?」 まるで未確認生物を見るかのような視線をよこす菊乃に、男はぽかんとした後、 「なんだそりゃ。俺様以外の誰かに見えるか?」 少々むっとした顔でそう返すと、その肩に陣取った黄色い小鳥も、頷くように「ピィ」と小さく鳴いた。 「あ、いえ、その、記憶を疑ったとか、そういうわけではないんですが」 あわわ、と釈明を始めた菊乃の頭を、テーブル越しに伸ばされた大きな手がぽんぽん、と撫でる。 「落ち着けよ、なんだってそんなに驚いてたんだ?まさか、教授と知り合いってわけじゃないよな?」 自分の頭を撫でて去っていった手をなんとなく目で追って、少女はぽつりと口を開いた。 「敬語、つかえるんだなって」 「へ?」 「貴方が、誰かに敬語を使う所を初めてみたので、その、すごく新鮮で、驚いたんです…」 菊乃のその言葉に、ギルベルトは盛大に顔をひきつらせる。 『おい、菊乃、お前もしかして』 『えぇ、ドイツ語もわかりますよ、一応』 立場が逆転したかのように恐る恐る紡ぎだされたドイツ語に菊乃が同じ言語で返事をした途端、男はテーブルに肘をついて頭を抱えた。 『マジか…俺様てっきり分かってないと思ってたぜ…』 『なんというか…すみません』 『いや、謝るこたぁねぇけどよ…てことは、最後のも、全部…?』 テーブルに肘をついたまま、額にあてた手の隙間からちらりと見やると、少女は気まずげに視線をそらす。 『えっと、その、攻略中とかなんとか…?』 あ、いや、ゲームか何かの話ですよね!?私まだドイツ語は不慣れで、聞き間違えたんだと思います!! 視線をテーブルの上のカップに固定したままイタリア語でまくし立てる少女の頬は、紅く染まっていて。 その様子を紅い瞳に映して、男は一つ深呼吸をすると、ぐん、と背筋を伸ばした。 「本田菊乃!」 「は、はい!」 凛とした声で、日本式に姓、名で呼ばれた己の名前に、菊乃もつられて背筋を伸ばす。 「俺はな、生まれてこの方一度も、この記憶を嫌だと思ったことはねぇ。プロイセンにまつわる全ての事を、さらっぴん忘れて生きる、ってのも悪くはねぇだろうが、俺は、ヴェストやローデリヒ、それにお前達にこうして記憶をもったまま遭えて、すげぇ嬉しい。そんでな、もし日本に…菊乃に、会えたら言おうと思ってたことがある」 記憶の中で、男だった自分に様々な事を教えてくれた時のような、落ち着いた、それでいて芯のある声で語られるその話の続きを、菊乃は視線だけで促した。 続きを聴く意思がある、と確認したところで、ギルベルトは徐に立ち上がり、カフェの目の前の川に向かって息を吸い込んで、 「ちょ」 何を叫ぶつもりかと止めようとした菊乃が声を上げるより先に、川べりに男の声が響く。 『菊乃ーーー!!!俺だ、ギルベルト・バルシュミットだーーーー!!!結婚してくれーーーーっ!!!!』 『うわあああああんた何叫んでんですかこんな所で!!!』 今度こそ顔を真っ赤にした少女は、立ち上がったままの男の左腕を掴んで抗議の声をあげた。そんな二人に、周囲から多少の好奇の目は寄せられるものの、その多くは純粋な疑問符を浮かべている。それもそのはず、 『ちょ、なんでいまの、日本語…!?』 ギルベルトが叫んだのは日本語だったからだ。 まさか男が日本語で、しかもよりによってあんな内容を叫ぶとは思っても見なかった菊乃の頭の中は、完全にパニックである。 「わりぃけど、俺日本語はそこまで分かるわけじゃねぇんだ。でも人間になって、お前に会って、チャンスが有ったら絶対言おうと思ってよ、練習したんだぜこれでも。ーー生まれる前は、俺は国ではあったけど、なんつーか、引退したみたいな存在だっただろ?でもお前は爺ながらもバリバリ現役で、会議だのなんだの仕事山積みだったじゃねぇか。あの時には、思って吐いても口には出せなかった。お前が好きだと、側で支えたい、側に居て欲しい、そう思っても。だから、人になって、同等な立場になれて、本当に嬉しかったんだぜ?それで言わなきゃ嘘だろう」 「あ…え、な…」 畳み掛ける様に語られる内容に、菊乃の口からは意味をなさない声しか出ない。 顔を真っ赤にして口をパクパクさせるばかりの少女に、ギルベルトはにやりと笑って手を差し出した。 「この手をとれよ、菊乃。昔と違って今はちゃんと職にもつけるし、稼ぎもある。創作活動だって好きなだけすればいいし、漫画はネットで読める。絶対後悔はさせねぇから」 記憶の中で自信満々に笑う男と、目の前で自分だけを見て笑う男が重なって見えて、菊乃の視界が揺れる。 「わ、わたしは、菊じゃないんですよ…?男じゃないし、国でもない。仕事もないし、ただの留学中の大学生です」 「んなこと俺が一番知ってるよ。確かに最初に惚れたのは本田菊って国だが、こうして会って話して、本田菊乃に改めて惚れたんだ。なぁ、その髪が俺と揃いになるまで、一緒にいようぜ」 日に照らされてプラチナ色に輝くその髪が、川からの風に二房なびいた。 「俺のは白髪じゃねぇ!って言ってたじゃないですか…」 笑った瞬間、焦げ茶色の瞳から涙が一粒転がり落ちて、テーブルクロスに染みを作る。 おずおずと差し出した手は、次の瞬間力強い男の手に包まれていた。 瞬間周りから湧き上がった拍手に対し、悠々と手を降る男のみぞおちに、真っ赤になった少女の肘鉄が決まるのは、その数秒後のことである。 end. 戻る |