ゲーム「リーズのアトリエ」のパロディです。
いつの間にか大変な額の借金を背負うことになった一国の王女が、隣の国に出奔して錬金術でがめつくお金を稼ぐ借金返済ゲームだよ(大体本当)
もちろんカプは独伊です。でもドイツまだ出てこない(おい)
キャストとしては、リーズ→伊、隊長→ドイツ。
性懲りもなく、伊が女の子です。
女体化ダメ、絶対。という方はこの場でリターンプリーズ。
女体化オッケーどんどこーい、な素敵なお方はどうぞ*
「もう一度言って頂けるかしら」
怒りを押し殺した声が、物音一つたたない部屋に響いた。
押しつぶされそうなその場の空気に、身じろぎ一つ出来ずに控える臣下達には目もくれず、黒髪の、年齢の読めない男は、手にした書状を再び読み上げた。
「ヴェネツィエラ王国、貴殿にお貸しした8億7千万4800コールについて、返済期限をすぎても返済がなく、再三の我が社からの問い合わせにも回答がなかったため、公的に使者を使わすある。速やかな返済、もしくは財産の差し押さえについての返答を頂きたいある」
「耀殿、とおっしゃいましたね。しかし私にはその借金についても、再三の問い合わせとやらについても、身に覚えがありませんよ」
しばらく呆然としていたらしい国王からの言葉に、周囲の人間は「そうか、そうだよな」と少し安心した顔になる。音楽と芸術を愛するこの国王は、王妃とそろってそんな無駄遣いをする人物ではない。まして8億コールだなどと。
しかし耀と呼ばれた男は、首を降ると書状をひらりと返した。
「身に覚えがあろうがなかろうが、ここには貴殿のサインがあるあるよ。・・・これからは、書類にはきちんと目を通してサインをなさることあるな」
その言葉を聞いて、王妃は目を剥いた。
周囲の声も聞かず耀へと歩み寄り、掲げられた書類をまじまじと見つめる。
「ローデリヒさんの・・・サインだわ・・・・」
そしてぼそりと呟かれた声に、ざわめきが広がった。
玉座に座ったままの王は、「そうですか」と答えるのみ。
いくら身に覚えが無いとはいえ、書類がそろっている以上法的にも逃れることが出来ないことは、二人とも分かっている。
ついでに王妃には、その書類に使われている紙が、最近金回りが激しい大臣が管轄する部署で使うものだという事も分かっていた。
(いい度胸ねあのクソ狸・・・まってらっしゃい!)
視線だけで紙を燃やし尽くせそうな目をして、王妃は王の傍らへと戻る。
そして、肘掛けにおかれた王の左手に、そっと手を重ねた。
「・・・身に覚えが無いとはいえ、書類に私の名があるのなら、私にその返済を行う義務があるという事でしょうね」
静かに語られた言葉に、耀は「物わかりの良い国王あるな」とうなずく。
「・・・・・わかりました。なんとか返済出来るよう、考えます」
その言葉を受けて、家臣からはまさか、という声があがった。
「その様な事実無根の借金に、国民の血税を使うとおっしゃるのですか!」
臣下の一人が発した言葉に答えたのは、バキ、という音だった。
「国民の血税を使う・・・?寝言は寝ておっしゃいな、ド・ディモイ男爵。税金はそんな無駄な事に使うために集めているのではなくてよ。ローデリヒさんがサインしたのならば、それはローデリヒ・エーデルシュタインとその家族が負うべき債務。働いて返すに決まっているでしょう。国の予算はびた一文関与させません」
手にした扇を握りつぶした王妃の、決然とした言葉に、皆やや青ざめて口をつぐむ。
「さて、期限はいつまでかしら?」
「三年は待てるある」
「わかったわ。払いきれなかったらというのは、三年後に考えましょう。逃げも隠れもいたしません」
王妃の言葉に王がうなずき、臣下達の困惑を残して、謁見は終了したのだった。
「ほんっっっとうに、良い度胸ねあのクソ狸!!名前通りガメツい狸だこと!しっぽ捕まえて身ぐるみ剥いで財産没収して足りなかったら狸自体売り払って返済にあてて差し上げるわ!あのキンキラキンの屋敷を売るだけでいくらになるかしらねぇ、なんだかワクワクしてきましたよローデリヒさん!」
うふふふふ、と暗い笑みを浮かべる王妃に、呼ばれた国王は「もっと上品にお笑いなさい」と言うと、紅茶ーーのカップに入った水を、口にした。
二人の向かいのソファに座った子供達は、あんぐりと口を開けるばかりだ。
それもそのはず、謁見から帰ってきた両親に、突然「これから働いて借金を返す事になりました。体を壊さない程度に、節約・節制を徹底なさい」と言われたからだ。
「ガメッツィ大臣のしっぽとやらを掴むのは、エリザベータと、ロヴィーノ、貴方にお願いします」
名前を呼ばれた第一王子は、母親の暗い笑みに青ざめながらこくりと頷く。
「父様、私は何をすればいいのですか?」
鈴の音の様な声で身を乗り出してそう言ったのは、第一王女だ。
自分にも出来る事があるはず、と必死の顔で父親を見つめるその榛色に、ローデリヒはそうですね、と息をついた。そして口を開き、
「・・・私と一緒に、造花を作りましょう」
そう言った。
それから、不必要な個人の持ち物は全部売り払って、公務の間に内職をする日々が始まった。芸術の才能に恵まれていた父と娘は、時折コンサートを開き、稼ぎに貢献する。
しかも幸いな事に、娘の描いた絵は、数枚にかなりの高値がついた。
8億コールという途方も無い金額も、三年あればなんとかなるかもしれない(もちろん大臣の財産を足したら、の話で、「これぞまさに取らぬ狸のなんとやらね」と王妃は笑う)、そんな気がしてきた、ある日。
「フェリシアーナ、貴女国外に亡命なさい」
突然母から告げられたその言葉に、第一王女はぽかんと口をあけた。
「へ・・・は・・国外?なぜですか?」
しかも亡命って。何から逃げるんですか。
すでに慣れた、水の入った紅茶のカップを手にしたままそう訪ねると、母は苦虫を100匹ほどかみつぶしたような顔で話しだす。
「ガメッツィの甥が、返す返すも腹立たしいセコい手を使おうとしてるのよ。貴女を嫁にもらえれば、借金を肩代わりするんですって!笑わせるわね、もとはといえば自分の身内の借金じゃないの!どうせあの好色狸と組んで、いいこと思いついたーとか思ってるんでしょうけどね、冗談じゃないわよ!何のために今必死になって証拠集めてると思ってるのよ、かわいい娘は渡さないわよ借金はまるっとお渡しするけどね!」
そこまで一息で言い切って、ふー、と深い息をつく。
王女はといえば、カップを宙に浮かせたまま固まっている。
「でもね、これからそんなバカなやつらが、おそらく残念ながらぽこぽこつくしみたいに出てくるのよ。宮中のゴミが自分で手をあげてくれるんだから、つまみ出すのは楽でいいんだけどね、このままじゃ貴女いつ襲われるかわからないわ。だから、ひとまず逃げなさい」
「で・・でも、逃げるって、どこへ」
「シュティフトガルトへ。王宮の北の森を抜ければ、シュティフトガルト行きの馬車が出る町があるわ。あの国なら治安も悪くないし、言葉も通じるし、私たちも公務で行く事がある。もちろん公には会えないけれど、非公式ならなんとでもなるわ。貴女運だけは信じられないくらい良いから、まぁ間違いなく無事につけるでしょう。今まで教えてきた事はちゃんと覚えてるわね?」
今まで教えてきた事。
元傭兵の母に、小さい頃から叩き込まれた、森の歩き方や敵からの逃げ方、寝るところの探し方や動物のさばき方、食べられる草食べられない草、そして傷の応急処置などなど。
ヴェネツィエラ王国の王子と王女は、普通の王子様やお姫様が(おそらく普通の庶民でも)知らない事を、色々と知っている。
その知識と技術があれば、隣の国まで行くのは十中八九問題ない。
実際「机上の空論で終わっちゃ意味ないものね」と、王妃に北の森へ放り込まれた事も一度や二度ではない。でも、それでも。
「皆が返済をがんばってるのに、私だけ逃げ出すなんて」
納得できない、そう言おうとしたフェリシアーナに、エリザベータは何言ってるの、と花のように笑った。
「あのねフェリシアーナ。シュティフトガルトはうちよりも、ちょっとだけだけど物価が高いの」
「え」
あ、そういう事。
一瞬で言いたい事を理解したらしい娘に満足げに頷いて、王妃は言った。
「三年後、楽しみにしてるわ。なんなら8億稼いで帰ってきてもいいのよ」
そうしてそれから二日後の夜、フェリシアーナは一人ひっそりと王宮を抜け出したのだった。
→次話
13.08.13 伊都