こちら の転生ネタの続き物です。

CPは仏英で、英が女の子です。
女体化ダメ、絶対。という方はこの場でリターンプリーズ。


女体化オッケーどんどこーい、な素敵なお方はどうぞ*
























「古代建築の、研究者ねぇ・・・」


 あっさりと視界から消えた男と入れ替わりにテーブルについたフランシスは、男が残していった名刺をトン、と叩いて言った。その表情はまだ少し固い。


「イギリスから一歩も出たことのない君が、なんでドイツ人なんかと知り合いなわけ?」
 おにーさん気に入らないなぁ。


 茶化した様な言い回しでも、声音が低くなっているのは自覚の上。
 そんな態度のフランシスにも、向かいに座った女性は平気な顔だ。


「言っただろ、古い知り合いだって。どこで知り合ったのかなんて覚えてない。アンタに私の知らない友人が売るほどいるように、私にアンタの知らない知人がどれだけ居てもおかしくないってだけの話」
 そういって紅茶を一口含む。こういった切り返しは「昔から」ーーまだ「アーサー」と呼ばれていた頃から、アシュレイが得意とするところだ。
 面の皮の厚さでは、記憶のない男に負けるつもりなど到底ない。
 そもそも。


「だいたい、なんでそんなに不機嫌なんだよ。いつもなら『お前に友達がいたなんて、お兄さん信じられなくて二度見しちゃった〜』とか『良かったなー脳内友達じゃなくて』とかいうところだろ」
 記憶の中のフランスの言い回しを思い出しながらそう言うと、意外にも目の前の男は表情をさらに硬くした。
 その真剣な瞳に、アシュレイはたじろぐ。
「あのね、アシュレイ。君、お兄さんのことどんな奴だと思ってるの」
 そんなセリフを真面目な顔で言われても。
「どんなって・・一言で言えば」
 変態、と言いかけて、ふと何かが引っかかった。
 
(フランスがどんな奴かって、)
 子供の頃は冗談みたいに綺麗なやつで、
 いつだって自分を茶化したりバカにしたりして、
 全裸にバラ一つとかいうとんでもない格好で世界中を飛び回ってみたり、
 一緒になってクリスマスぶっ潰したり、
 酔っ払って泣きだした自分を、この後に及んで茶化すもんだから殴り合いになったり、
 綺麗なら男でも女でも、とか公言してるような、


「あれ?」


 今脳内再生されたシーンは、全部「フランス」のイメージだ。だって髪型が違う。
 間の前に座っている男は、短髪で。
(いやこの頭で全裸バラも余裕で想像つくんだけど)
 短髪の、「フランシス」のイメージは?


 まじまじと目の前の男を見つめてみる。
 初めてあった時には色々と失礼な事を言われたけれど。その後わざわざ自分を探しだしてくれて、お茶をごちそうしてくれて。
 そう言えば、話をしていても、昔のようにわざと自分を怒らせる様な話し方をされたことはないような・・・
 格好も、いつも(全裸とかではなくて)まともな服を着ているような・・・
 飲みに行った時には飲み過ぎない様に気をかけてくれて、家までちゃんと送ってくれてる、し。
 将来は企業して、子供に夢を与える仕事をしたいと言った時には、絶対笑われると思ったのに、意外に「いいじゃん、やりたい事がまともにあるのって」とか言ってたし。


「え、っと・・あれ?」


 なんか、目の前の「フランシス」って、


「意外に・・・まとも・・?」


 ぽろりと口からこぼれ落ちたセリフに、男は驚愕の顔をして、次の瞬間がっくりとうなだれた。
「意外にまともって・・なんでそんな評価ひくいんだよ・・」
 そもそもまともですら無いと思われてたわけ・・?
 疲れきった声音でそう問われて、アシュレイは驚いてわたわたと両手を振った。
 そして盛大に口を滑らせた。


「あ、いや、その、だってホラ、クリスマスとかマッパで大騒ぎしたり、綺麗な人なら男でも全然オッケーとか言ってたじゃん」


 やべ、と思ったのも後の祭り。
 がばっと音がしそうな勢いで顔を上げた男に、記憶の事とかどうやってごまかそうかとフル回転させていた頭が、予想外の言葉を聞いた。


「ちょ・・それ、なんで・・!?誰から聞いたのアシュレイ!そういうこと漏らしそうなのはブノワだけど、いやビセンテも・・意外にカロンあたりが・・!?でもあいつら一体どこでアシュレイと!?」
「ーーーって、やってたのかよマジで」
 思わず突っ込むと、フランシスは両手を握る勢いで「うそうそうそやってないよそんな!だよね、信じるはずないよね、お兄さんがまさかそんなこと!」とか言い出す始末で。
 アシュレイの「マジで」というのはもちろん、今も、という意味なのだが、フランシスが知る由もない。


「えーと、いや、やってても言ってても今更評価は変わんないから気にすんな、な?むしろちょっと安心した」
 やっぱお前はフランスなんだなって。


 くすりと笑ってそう言うと、フランシスはまたも動きを止めて、次いで深い溜息をついた。
(忙しい奴だ)


「はぁ・・・折角アシュレイの前ではまともにしてようと思ったのに・・」
 そんなつぶやきを、アシュレイは笑い飛ばす。
「変な奴だなぁ、そんな必要ないだろ今更。そもそも初対面で人の顔にダメ出ししておいて何言ってんだか」
「それは申し訳なかったけど!少しでも良く思われたいっていうおにーさんのオトコゴコロがですね・・」
 短い髪をかきあげて、拗ねたように言うその仕草すら絵になるこの男は、そのセリフでアシュレイの心臓がはねたのを知らないのだろう。
「わ・・私にどう思われようと、気にする必要ないだろアンタは。だいたい、気に入らない奴だったらわざわざこうやって休日に待ち合わせたりしなーー」
『気にする必要ない!?無いはずないだろ、アシュレイきみバカなの?ねぇ、月一回しかもらえない土日休みに、こうやってドーバー海峡超えてくる俺が、君にどう思われてても気にする必要がないって?フランスに遊びに来てって言ってもアシュレイは全然来てくれないから、会いたかったら俺がイギリスに来るしか無いでしょ!一体今までに交通費でいくらかかったと思ってんの!?』
 突然溢れだしたフランス語とその内容に、アシュレイは瞬きを4回して、


『・・・今ユーロ安いから、大変だな』


 と自分で考えても的はずれな答えを返した。それでも勢いづいた男は止まらない。
『そうだよ大変なんだよ!イギリスはいつまでポンドで頑張るつもりなんだよ今ユーロやばいからそれはそれでいいんだろうけど、今はそういう話じゃないの!あのねアシュレイ、この俺が、こうしてわざわざイギリスまで来てる意味、わかってないとか言わないよね?』
 幾分座った目で詰め寄られて、アシュレイは開いた口がふさがらない。なんだこいつ、なんでいきなりこんな、必死になるんだ。
『やー、そんなに私の事が好きだったとは存じませんで』
 フランスならば「変な言い方すんな!放っておいたらお前、ろくなもん食べないから来てやったんでしょ!」とか返すんだろう、そう思いながら行った言葉に、男はホッとしたように頷いてみせた。
『よかった・・そこからかと思ってお兄さん焦ったわ・・』
 予想外の反応に、今度はアシュレイが焦る番だ。
「え・・ちょ、今の笑うとこだろ?何落ち着いて茶とか飲んでんのあんた」
 そういう態度は誤解を生むぞ、私だからいいようなものの。そう続けた途端、フランシスは珍しく音を立ててカップをソーサーにおいた。
 そして、


「ちょっとおいで」


 何やら怒ったような顔でさっさと支払いを済ませると、アシュレイの腕を取って喫茶店を後にする。
 完全に連行される形のアシュレイは、滅多に見ないフランスの真剣な横顔をちらりと見やって、少し泣きそうになった。
(くそっ・・・今も昔も、こいつのこういう顔には弱いって分かってる自分が忌々しい)
 平素であれば、強気に振り払ったり出来るはずの腕が、全く言うことを聞かない。




 これ以上怒らせる事が、




 これ以上嫌われる事が、とてつもなくーー怖い。




 昔は国同士、どんなに嫌われても会議やら何やらで必ずつながりはあった。逆に言うと、その事に甘えていたのかもしれない。
 でも、今は。


 ただの人間同士の、今は。


 嫌われてしまったら、連絡が途絶えてしまったら、ーーもう、一生会えない事だってあり得るのだ。


 そう考えただけで、背筋が凍るような気がした。けれど。
 その後に湧いてきたのは、意味不明に不機嫌な男と、弱々しい自分に対する苛立ち。


 
 最悪のシナリオを考えてうじうじしていた、「兄」達に追い掛け回されて森の中で泣いていた「自分」は、もういないはず。
 ここにいるのは、大英帝国の記憶を持つ人間だ!




「おいこらちょっと待て!」


 上等だ、もう来ないって言うならこっちから押しかけてやる! 
 突然立ち止まって振り払われた腕に、振り返ったフランシスのその驚いた顔を睨み上げて、アシュレイは口を開いた。


「聞きたいことが3つある。まず一つ、これからどこに行くつもりだ。行き先くらい教えてもらえれば、ちゃんと自分で歩く。それから二つ目、何をそんなに怒ってるんだ。何が気に入らなかったのか、口が付いてるんだからちゃんと言え。そうすればその、態度やら何やら、改めるのはやぶさかじゃない」
 あくまで私に非があると認めた場合、だけどな!


「・・・・・・」
「・・・・・・」


 しばらく、沈黙が落ちる。
 人通りの少ない道だったので、他人の声すらもしないその沈黙のなか、フランシスは静かな顔でアシュレイを見ていた。


「・・質問は受け付けました。それで、3つ目は?」
 表情に見合う静かな声でそう言われて、アシュレイの頬がかぁ、と赤くなる。
 
「・・・わ、私が、フランスまで行っても・・邪魔じゃ、ないのか」


 ここまで来たら意地だ、と赤くなった顔を自覚したまま言い切ると、フランシスの蒼い瞳が大きくなった。


「アシュレイ、きみ・・」
「さ、さっさと答えろ!」
 恥ずかしさに耐えられずに言葉を遮ると、男はようやく表情をほころばせる。


「まず一つ目、どこに行くかだったよね。うーん、実はよく考えてなかったんだけど・・とりあえず二人きりでゆっくり話せるところに行こうと思って。アシュレイ心当たりある?」
 先ほどまでの苛立ちを全く感じさせないその口調に、聞かれた女性は完全に毒気を抜かれた。


「考えてなかったってアンタ・・・だってあんなズカズカ歩いておいて」
「だって腹がたったんだもん。その理由は後で説明するから、まずは静かに話せるところに行かない?」
 心当たり、と言われて、アシュレイは3秒考えて、


「・・・ここからだと、家が結構近いけど」


 そういった。言われた男の方はといえば、
「え・・あ、うーん・・・まぁ、アシュレイが良いって言うなら、折角だし」
 何やら少し考えた後、コクリと頷く。そうして二人は、先程までとは逆に、アシュレイを前にして歩き出したのだった。








「おぉ・・・なんていうか、雰囲気ぴったりだねアシュレイ」
 バラのアーチとか、庭とか、屋内のインテリアも、すっごい『アシュレイの家』って感じ!
 そんな感想を言われて、アシュレイは微かに微笑んだ。


(フランスの記憶がなくても、『イギリスの家』の雰囲気を覚えてるんだとしたら)


 やっぱり、嬉しいものだ。


「褒めてもお茶くらいしか出ないぞ。・・すぐに用意するから、座って待ってろ」
 イギリスが持っていた程ではないが、そこそこアンティークの家具が置かれた応接間に男を通すと、アシュレイは台所へ足を向けた。
 手早く紅茶の準備をして居間に戻ると、男は椅子に座らず、立ったまま部屋を眺めていて。


「何物色してんだこら。とにかく座れよ、アンタん家に有るような前衛的な椅子とは違うけど、座り心地は悪くないから」
 フランスが矢鱈自慢していた、変わった形の椅子を思い出してそう言うと、男は2,3度瞬きをして、素直に椅子に腰掛けた。
 そして出された紅茶を口にしながら、不思議そうな顔でアシュレイを見つめる。


「・・・俺、ここに来たの初めてだよね?デジャヴ・・なのか分かんないけど、なんかすごい懐かしい感じがする・・・それに、アシュレイに椅子の事話したことあったっけ?」
 
 微かに混乱しているらしい男にも、アシュレイの笑みは深まるばかりだ。
(やっぱり、フランスなんだなぁ)


「少なくとも、フランシスがここに来たのは今日がはじめてだな。椅子は、前にテレビで見てこういうの好きそうだなぁ、と思ってたんだけど、ホントに持ってたとは」
 あとコーヒーメーカーは黒で、カフェオレボウルは緑だろ、と言うと、男は口につけようとしていたカップをぴたりととめて、アシュレイを見つめる。
「なに・・何で知ってんのアシュレイ」
 その驚いた顔が爽快で、アシュレイはしれ、と紅茶を飲んだ。うん、うまい。


「勘」


 一言で片付けるアシュレイに、男は突然深い溜息をついて頭を抱える。


「お、おい、どうしたよ」
「もう、何なのきみ。そんなに俺の事分かっちゃうのに、なんで俺が君のこと好きだって事は分かってくれないんだよ」
「・・・・・・・は?」
 もうやだ、と拗ねたような顔をする男の言葉に、今度はアシュレイが目を瞬かせる番で。


「あのね、さっき怒ったのは、俺が君のことを好きだってことを、アシュレイ、君自身が全然信じてないからだよ。どうでもいい子のために、わざわざドーバー海峡超えてくるはずないでしょ。笑うところなんかじゃないし、それこそ冗談じゃない。お兄さんこんなに頑張るの初めてだよもう、可哀想だと思うなら信じてよ」
 ぽかんと口を開けたアシュレイにかまわず、男の声は「それに、」と続く。
「来て来てって言ってるのに、なんで邪魔だなんて思うかなぁ。アシュレイがフランスに来てくれるっていうなら、俺すっごい気合入れて街の案内しようとかって、いろいろ考えてるのに。・・・アシュレイを連れていきたいところが、たくさんあるんだよ」


 なに。何言ってんのこいつ。
 
 だって、あのフランスが。
 いつもいつも、眉毛だの味オンチだの古臭いだの、イギリスの事を否定しては(自分も大概言いたい放題だったけど)笑ってた、フランスが。


 自分なんか、相手にするはず、ない、あのフランスが。




「・・・・・・・・・・・正気か?」


 気の迷いとか言われたら確実に今ここで絞め殺す自信ある、と物騒な事を思いながら聞いた言葉にも、男はあっさりと頷いて。


「正気だし、本気だよお兄さんは。ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、アシュレイはなんで俺がキミを好きになるはずがないなんて思ってるの?」




 その疑問に、アシュレイは目からうろこが落ちたようだった。




 なんで、「フランシス」が自分を好きになるはずがないと、思ってたかって。


 フランシスがフランスだから、そうだと思っていたけれど、今の彼にはフランスだった頃の記憶はないわけで。




(・・・また、だ)




 初めてあった時、敵以外の可能性を提示された時と、同じ。
 「フランス」と「フランシス」の違いが、自分達に及ぼすその影響は、こんなにも大きい。


 その事を思い出して、アシュレイの目に涙が浮かんだ。
 あの時と同じ、嬉しくて。




「え、ちょ、ねぇ、どしたの!?何かまずいこと聞いた!?」
「・・・ドーバー海峡超えるのって、いくらかかる?」
「え・・え?」
 今回も、ついて行けていない顔をしている男に、アシュレイは涙を拭って笑ってみせる。


「あんたが、私をその、好きだって事は、信じる。・・次は、私が行くから。予定あけておけよ、フランシス」
 気合とやらを大盤振る舞いしてもらおうか。


 そのセリフを行って、ちょうど二秒後。
 
「うわ!?」
 がたん、と音を立てて立ち上がった男に、テーブル越しに抱き寄せられて、アシュレイは紅茶をこぼしそうになった。
「ちょ・・なにすんだいきなり!カップが割れたらどうすんだばかぁ!」
「うん、ごめんねアシュレイがあんまり可愛いから、つい」
「か・・わ、いい!?」
「ねぇアシュレイ、キスしたい。キスしていい?」
「はぁ!?」
 言うが早いが顎を取られて、温かい感触が唇を覆う。
 ちゅ、と音を立てて離れていった温かいものが、フランシスの唇だと認識した瞬間、アシュレイは無意識に右手を閃かせていた。


「いったい!何で!?俺が君のこと好きだって分かってくれたんでしょー!?」
「それとこれとは話が別だ変態!ヒゲ!いきなり何してくれんだばかぁ!!」
「だからその顔とか可愛いからやめてってば」
「ひっつくな!何なんだアンタ、今まで普通だったのに!」
「だって外だから嫌がるだろうなって、お兄さんなりに我慢してたんですー。なのにアシュレイがお家に誘ってくれたりしちゃうから、これはもうキスくらいはしておかないとでしょ」
「意味わかんねぇよ離れろ!顔近づけてくんな変態!」
 顔を赤く染め上げて抵抗するアシュレイの頭の中は、真っ白だ。
 イギリスの時にも、酔っ払って「昔は可愛かったのになぁ」とか言いながらフランスが抱きついてきたことはあったけども。こんな、包み込むみたいな抱擁じゃなかったし、キスなんて真面目にされたこともない。
 好きになってもらえるはずない、と思い込んでいた相手からの開き直ったスキンシップは、アシュレイには刺激が強すぎた。


 そして。


「今すぐ離れないと、フランスには金輪際行かないからな!」
「えー、じゃあこのままお持ち帰りする。フランスまで持って帰る」
「寝言は寝て言え!」
「ーーぐふっ」


 結局手(というか肘)が出た。
 みぞおちを抑えて蹲ったフランシスのあまりの痛がり様に、心配になって膝をついた途端に抱き寄せられてまたキスされて、大騒ぎしている自分たちが、第三者からみたらただのバカップルでしか無いことなど、アシュレイの脳に認識されるはずもなく。


 二人の大騒ぎは、長い夏の日が落ちる頃まで続いたのだった。


 おしまい。



 前回の続きです。ようやくくっつきました(笑)
 フランシスの話し方がちょくちょく良くわからなくなりました・・・(苦笑)

 12.07.12 伊都