こちら の転生ネタの続き物です。

CPは仏英で、英が女の子です。
女体化ダメ、絶対。という方はこの場でリターンプリーズ。


女体化オッケーどんどこーい、な素敵なお方はどうぞ*























 その男を見かけたのは、行きつけの喫茶店での事だった。
 夕方になって幾分やわらいだ夏の日差しが斜めに差し込むテラス席で、いつもの様に紅茶とケーキを食べながら本を読んでいたアシュレイは、ふと耳に入った話し声に目を上げた。

(外国語・・観光客か?)

 何やら電話で話しているらしい男の声に聞き覚えがあるような気がして、不自然に見えないように視線を巡らせる。
 その視線が店側の通路に差し掛かり、その男を映しだした途端、アシュレイはピシリと動きを止めた。

「ド・・!」

 最期まで声に出さなかったのは自分、頑張った!
 そう誤魔化そうとしたけれど、最初の一音はばっちり周囲に聞こえてしまったようで、テラス席の皆が一様にアシュレイへと視線を向ける。
 
 それは、男も同様で。


(あーもう、どうせ覚えてないんだから、また変な顔されるよ・・)


 父であるアメリカや、今まさに待ち合わせをしているフランスは、国であった頃の記憶を持っていない。
 覚えているのは自分だけだと思っているアシュレイは、周囲の目から逃れる様に顔を伏せた。
 そのまま読んでいた本に没頭するふりをしていると、誰か近づいてくる気配がして、

「Excuse me, are you United Kingdom?」

 さっきの電話の声が、そう言った。


「!?」
 思わずがば、と顔を上げると、記憶にあるそれよりも少し落ち着いた色の瞳が、自分を写していて。
「え・・や、イギリス人では、あるけど」
 まさか。
 だって、他のやつはみんな。
 観光客で、英語が下手なだけだろ。イギリス人ですか、って聞きたかったんだよな、きっと。
 真っ白になった頭でなんとかそう答えると、男は慎重に言葉を選んでいる風で。


「人違いでしたら失礼ですが、アーサー・カークランド卿をご存知ですか」
 ドイツ訛りの英語で言われたセリフに入っていた名前は、間違いなく昔自分が呼ばれていた呼称だった。
 
 アーサー・カークランド。

 この世界では、もう自分をその名で呼ぶ者は存在しないと、そう思っていたのに。


「ドイツ・・なの、か・・・?」

 ぽつりと返した返事に、相手の男は心底ホッとしたように頷いた。
 

『イギリス』のことを、覚えている人間がいる、という事実に、アシュレイは思わず視界がぼやけるのをとめられない。

「え・・お、おい!?」
 かれこれ何十年ぶりになるだろう、昔もめったに聞けなかった男の焦る声を聞きながら、ハンカチを取り出すべく、アシュレイはカバンを開けたのだった。



「いきなり泣き出すとはな・・まあ気絶したイタリアよりはマシか」
 そのまま同じテーブルにつき、ルードヴィッヒ・フンデルト・フォン・ハインラインと大層な名を名乗った男が、やわらかな表情をして語る「イタリア」という名前に、アシュレイは目を瞬かせた。
「ちょ・・ちょっとまて。イタリア・・イタリアも、覚えてる、のか・・?」
 だって、自分の周りにはだれも。
 嘘だろう、と思いながらの質問に、ルードヴィッヒはあっさりと頷く。
「幸いなことに。あと俺が知る限り、日本と兄さんとは覚えてるな。イタリア兄とスペイン、オーストリアとハンガリーは覚えていない」
「だからちょっと待てよ!なんでそんないっぱい居るんだ!?こっちは今までずっと一人で・・アメリカも、フランスも、全然覚えてなくて、もう私しか覚えてないんだと思ってたのに!」
 不公平だろばかぁ!と憤慨して見せると、ルードヴィッヒはコーヒーを一口のんで、非常に気まずい顔をしながら口を開いた。
「・・これは統計的な確率の話だが、その・・地理的な問題じゃないのか?」
「地理的?」
 話が読めず、首を傾げてみせると、男のセリフは「だからだな、」と続く。
「ここは島国だろう?大陸の方は陸続きで色んな国の奴が行き来してるから、ここに比べて遭いやすいんじゃないかと・・」
「・・・・・・・・・悪かったなヨーロッパの上の方にプカプカ浮いてて」
 生まれ変わってまで栄光ある孤独してて悪いかよ!と自嘲気味に言うと、ルードヴィッヒは、まぁそう気を悪くするなと苦笑した。
「まぁでも、こうして学会出張の帰りによった喫茶店で遭うくらいだから、何らかの因果はあるんだろうがな」
 イギリスが覚えていて、今は女性だと言えば、日本もイタリアも喜ぶだろう。
 そう言われて気がついた疑問を、アシュレイは男に問いかける。
「そういえば、ドイツは私が女でも驚かないんだな。記憶がないならともかく、ある奴には笑われるかびびられるかすると思ってた」
 それかまず、自分が「イギリス」だと気づいてもらえないかと。
 ところが「ドイツ」の返事は「いや、慣れてる」というもので。
「慣れてるって、どういうことだよ」
「・・・実は、イタリアと日本も今は女性でな。ーー半年後に結婚するんだ」

「・・・・・・・・・イタリアと、日本が?」

 ぽかん、と口を開けて聞き返すと、男は少し照れくさそうな顔をして頷いた。
 その肯定の仕草に、アシュレイは目を見開く。



「・・・・・・・・・・・・・・まてまてまてまてまて。日本じゃ同性婚はまだ認められてないだろ」
「ーーーってそっちか!結婚するのは俺とイタリアだ!」
 どうしたんだイギリス、お前ツッコミ担当だっただろ!いや俺の言い方も悪かったが!
 

 久しぶりに見るドイツの焦った顔と、自分の勘違いっぷりに、思わずアシュレイは思わず吹き出した。
「そ、そうだよな!いや悪い、普通に考えれば、あのイタリアが女になってお前とくっつかないとか、ありえないもんな」
「・・・誤解が解けたようで、なによりだ」
 少しつかれた様なルードヴィッヒの話し方も、昔の世界会議の終盤を思い出させるもので。
「あーホント懐かしいな。・・・でも、こうして昔の話ができる人と遭えて、私がどんなに嬉しいか・・・ドイツにはわからないと思う」
 しんみりした声でそういうと、ルードヴィッヒも表情を改めて頷いた。
「そうだな・・俺の場合はギルベルトやローデリヒがすぐ近くにいたから。・・・そういえば、アメリカとフランスは今どうしてるんだ?性別はどうなった?」
 好奇心を隠し切れない瞳を向けられて、アシュレイはぐ、と詰まる。
(くそ・・一番聞かれたくなかったところを!)
「どっちも男で・・フランスは、なんか良くわかんないけどこっちにちょくちょく来てる」
「相変わらずみたいだな。・・アメリカは?あっちに行った時に知り合ったのか?」
「いや・・アメリカと、ロンドンを行ったり来たりしてるんだ。こっちにも家を持ってて」
「ほぉ。若いのに大したものだ。仕事は何をしてるんだ?」
「なんかエンジニアっぽいことしてるけど・・・・・若くは、ないよ」

 あぁ、言いたくない。
 本当に、今でも信じたくないのに。
 視線が勝手に斜め下に落ちていく。それでもルードヴィッヒは質問をやめてくれなくて。

「まぁかくいう俺ももうすぐ三十路だしな。アメリカは?」



「よ・・・」
「よ?」



「・・・・よんじゅうご・・・・・・」

「・・・・・・え?」

 引きつったであろう顔を直視できず、冷や汗に背中を押されてやけになったアシュレイは言葉を続けた。

「ちなみに言うと、私の父親の名前が、アルフレッド・ジョーンズといいまして」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



「カークランドは、母方の姓で・・・アルフレッド・ジョーンズは、うちの父です」


 あぁ、言ってしまった。
 本当に、なんで、どうしてこうなった。
 無意味に敬語になっちまったじゃねーかばかぁ!
 
 心の中でそうごちて、いやな汗を書いているその間、約一分。
 テーブルには沈黙がおちた。

 そして、ルードヴィッヒがようやく発した言葉はというと。



「まじか」

 かつてはその様な言葉遣いはあまり聞いたことがなかったけれど、それだけ衝撃だったのだろう。
 アシュレイは疲れきった顔でルードヴィッヒを見やって頷き、

「まじです」

 と返す。そして再び沈黙がおり、三十秒経過後。



「なんというか・・・その・・・・今まで、大変だったな、イギリス」
 ぽん、と肩をたたかれて、思わず涙が滲んだ。

「ホント・・お前だけだよ分かってくれたの・・・ありがとなドイツ」
 大きな手に肩をぽんぽん、と叩かれながら目を伏せた、その時だった。









「ちょっと、勝手にさわんないでくれる」








 ぐい、と肩を抱かれて引き寄せらるのと同時に聞こえた声に、アシュレイの涙が引っ込んだ。
 ついでにルードヴィッヒはというと、ありえないモノを見たような驚愕の顔で、アシュレイの後ろをガン見している。
(わかる・・その気持ち、すっげーわかるぞドイツ!!)
 しかし2人の理解は、アシュレイを抱き寄せている人物には通じなかった。

「事情はよくわからないけど、この子を慰めるのは俺の役目なの。すみませんね」
 背後から投げつけられる、敵意むき出しのセリフにも、ルードヴィッヒは目を瞬かせるばかりで。

「ちょ・・フランシス!失礼だろ!この人はその、ゆ・・友人っつーか知人っつーか、その」
「古い知人で、ルードヴィッヒ・フンデルト・フォン・ハインラインと言う。ドイツからの学会出張中に、たまたま合ったものだから、懐かしくて話し込んでいたんだ。泣かせるつもりはなかった、すまない」
 立ち上がって軽く頭を下げるルードヴィッヒに、フランシスは少し面白くなさそうな顔を残しながらもアシュレイを離す。
「いや、俺も・・ついカッとなって悪かったよ。俺はフランシス・ボヌフォア、よろしく」
 差し出された手を握り返しながら、ルードヴィッヒはずっと気になっていたことをついに口にした。

「・・・その髪型、似合うな、フランシス」
 
 言われた方のフランシスはというと、会ったばかりの人間にいきなりファーストネームで呼ばれたのに違和感を感じない自分に戸惑いながらも、「そりゃ、どうも」と返す。
 そのまま微妙な空気が流れそうになったテーブルだったが、ルードヴィッヒはあっさりと荷物を手にして立ち上がった。

「え・・もう行くの?」
 その仕草に別れの時を知って、そう言ったアシュレイと、そのセリフと顔をうけて盛大に顔をしかめたフランシスに、ルードヴィッヒの口元は、知らず笑みの形になる。
「悪い、飛行機の時間があってな。・・・俺は今、イタリアに住んでる。いつか、よかったら2人で遊びに来てくれ。婚約者と、他にも紹介したい友人がいるんだ」
 そうそう、結婚式には2人を招待してもいいか?婚約者も絶対喜ぶ、と続けると、フランシスの表情は困惑のそれに変わった。
 それはそうだろう、会ったばかりの男に結婚式に招待されても戸惑うのが普通だ。
 それでも、彼が「フランス」であるのは間違ない事実、だから。

「あぁ、そうする。ありがとうな『ドイツ』。お幸せに」
「・・・俺が行ってもいいもんなのか、ちょっとまだ判断しきれてないんだけど・・招待してもらえるのなら、アシュレイも行くみたいだし、行かせてもらおうかな」
 そう答えた2人に頷いて、ルードヴィッヒはテラス席を後にした。

 飛行機に乗るまでの間に、フィーにどこまで電話で話せるだろうか。それとも帰国してからゆっくり離したほうがいいだろうか。そう、考えながら。




 おしまい。



 久しぶりの続きです。
 この後残された2人の話もあります。近々アップ予定です(´∀`*)ウフフ

 12.07.09 伊都