「いーてんきだねー」


 医学科キャンパスのピロティ(広場)のベンチで、一人はアイスを片手に、一人は生化学教科書を膝に。

 ぴー、ひょろろ。 
 鳶がそう鳴きながら飛ぶのにふさわしく澄み切った青空をみあげ、いつもどおり気の抜けた声を出す男に、ドイツは苦笑した。




 一年後期 ーその個人を特定する単語としてー




  「そうだな。ここは高台だから空が下より綺麗に見える」

 そう答えて”ストライヤーの生化学”を閉じたドイツの顔が、ふいに影になる。





「ルートヴィッヒ。こんなところに居たのですか、講義室にいないから探しましたよ」





 急に天気が悪くなったわけもなく、まあただ単に、目の前に人が立ったわけなのだが。




「オ・・オーストリア。どうしたんだ、何か用でも」

 ひく、と顔を引きつらせた所から見ても、ドイツにとって、オーストリアと呼ばれた青年は、苦手とするところらしかった。

 そんなドイツに、青年はにっこりと笑い、右手を突き出す。

 うけとれ、とばかりに目の前に置かれた手から、その中身を受け取ると。


「・・・USB?」

「生化学の去年までの過去問が入っています。たしか今期の試験対策委員は、貴男でしたね。解答作成、がんばってください」

「あ・・あぁ、そうだった。わざわざすまないな、オーストリア」

「ーーー相変わらずですね、貴男も。・・・そちらは?」

 
 素直に礼を言うと、青年はメガネの奥の目を少し細めて答え、それからイタリアの方に顔を向ける。


 自動販売機で売られているアイスをようやく食べ終わったイタリアは、あわてて立ち上がり、なぜか左手で敬礼して挨拶をはじめた。


「こんにちはイタリアデス。ドイツの友達で医学科1年デス。すきなものはピザとアイスとドイツデス」
「馬鹿おまえどういう自己紹介だ!!」

 座ったままぎょっとして声を上げるドイツをちら、とみやり、


「はじめましてイタリア。私はオーストリアといいます。医学科の二年ですから、君たちの一つ上ですね」

 にっこりと笑って握手をするべく手を差し出す。

 イタリアはと言えば、その手を握ってぶんぶんふりながら

「あの、あの、ドイツと仲良くなるにはどうすればいいデスカ!?」

 などと聞き出す始末で。




「アホかーー!!よりにもよってこいつにそんな事訊かんでいい!!」




 握手を続ける二人を、べり、と音がしそうな勢いで引きはがし、


「もう三限まで時間がないだろう、そのゴミ捨ててこい!ーーオーストリア、USBは今度返しに行くから」

 広場の隅にあるゴミ箱へ、めためたと走ってゆくイタリアを視界の端に捕らえてそういうと、青年はしれ、と手をふった。

「かまいませんよ、いつでも。私も午後は病理実習なのでもういきます。ーーあぁそうだ、ルートヴィッヒ」

 背中を向けて、すぐに振り返った青年に、いぶかしげな目で答えると、


「良い友人をもちましたね」


 そんなことを言われたので。






「・・・・・・・・まぁな」





 微妙な顔で、一言そう答えた。









「どいつー、あれ・・さっきのえーと、オーストリアさんは?」

 ゴミ箱にアイスの空を入れ、めためた帰ってきたイタリアは、周囲を見回してさっきまで居た青年の所在を問う。

「二年も午後いちで講義だそうだ。俺たちもいくぞ」

 こころなしか低い声でそう言うドイツに、イタリアは首をかしげてみせる。



「うん、でもねドイツ。ーーー三限休講って、さっきメーリスまわってきたよ?」






 ぴー、ひょろろ。

 鳶がまたひとつ、空の高みでくるりと円を描いた。







 
 オーストリアさん登場。一個上の先輩です(´ω`*)
 あともしかしてわからない方の為に、用語解説。
・USB フラッシュメモリーのこと。データのやりとりは大抵コレに入れてやります。
・試験対策委員 各単元ごとに(生化学とか神経系とか)、教授たちから試験のヤマを聞き出したり、試験日程を交渉したり、
        過去問の整理と解説作成をしたりと、学年みんなが試験にうかるよう頑張る仕事。六年間のうち一度は皆回ってくる。
・メーリス メーリングリストの略。

 試験対策委員については、「試験対策プリント制作委員」という長ったらしい名前を略して「たいプリ委員」と呼ばれる事もあります。
 寧ろそっちが主流かも (´ー`*)



 というわけで、時間軸はすこし戻って1年後期。すこし仲良くなった二人です。
 相変わらず週1の専門生活。
 ちなみに専門キャンパスは高台の上にある設定。←かなりどうでもいい、な。



 そんでもって以下おまけデス(実はこっちが書きたくて書き始めたという話は秘密の方向で)


 ↓三限が休講になったので、二人はカフェテリアでお茶をすることになった模様。


「ねぇドイツー、オーストリアさんって、ドイツのお兄ちゃん?」

 ぶぼはっ!!!

「げはっ、おま・・ごほ、そんなわけあるか!!」

「えーでもだって、感じが似てたから。先輩にはいつも敬語のドイツが普通に話してたしさー」

「あー・・・兄ではないが・・従兄弟?の、ようなモノだ。一応血縁ではあるからな、少しくらいは似た所もあるだろう」

「ふーん・・・オーストリアさんとは仲いいの?」

「お前・・・・・どこを見たらそう思うんだ。というか何故そんな事を訊く」

「うーん。。えっとね、ドイツってファーストネーム何だっけ」

「・・・・・・・・・・・・は?」

「ファーストネームだよ。俺のフェリシアーノみたいな、さ。さっきオーストリアさんがよんでた」

「あぁ・・・・ルートヴィッヒだが」

「そうそれ。あのね、ドイツとオーストリアさんはそんなに仲言い訳じゃないんでしょう?」

「まぁそう、だな。俺が勝手に苦手としているというか」

「それでね、オーストリアさんがドイツをファーストネームで呼ぶなら、俺も呼んで良い?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「だーかーらー。俺もドイツのこと、ルートヴィッヒって呼んで良い?」

「・・・・・何を言い出すかと思えば・・・」

「だって!ドイツから見たら、俺は仲良しでしょー?オーストリアさんは仲良しじゃないんでしょ?仲良しなのにファミリーネームしか呼ばないなんてやだよ! オーストリアさんはファーストネームでよんでるのに!」

「・・・また意味不明な・・・まぁ駄目とは言わんが・・・。呼ばれ慣れてないから、反応するのに時間がかかるかもしれないぞ」

「いいの!?」

「ああ。お前が呼びたいように呼ぶと良い」

「やったぁルーディー大好きー!!」



「ーーちょっとまてなんだその呼び名は!!!!俺の名前じゃないだろう!!!!!」



「え、でもルートヴィッヒでしょ?ルーディーじゃん」

「じゃん、じゃない!!」

「だってー。なんか堅苦しいし略した方が友達っぽいもん。ルーディー、だめ?」

「・・・・・だめ、というか、なんだ、その・・・・・恥ずかしいからやめてくれ・・・」

「あははドイツ顔真っ赤ー・・・って、あ」

「ほらみろお前もドイツの方が言いやすいだろう、その名前はやっぱり却下だ」

「ヴェーーー!!今から練習するから!間違えないから!!」

「間違ってないだろう別に!練習せんでいい!!」

「るーでぃーー!!」

「ーーって抱きつくな!!茶が溢れるだろうが!!」



 はい、スミマセン。
 チップで、

「普段みんなに「ルートヴィッヒ」としか呼ばれてなくて、イタリアに「ルーディー☆」って呼ばれてびっくりして顔赤くしたらいいのにと思いました。」

 とかいう凄い萌え設定を頂いて、これはかかねば!!!(ノ`A´) と思った次第でアリマス。

 雅美さま、こんなんでましたがいかがでしょうかどきどき・・・!
 書いた本人 ちょう 楽しかったです!(笑
 

 06.12.21 伊都