・・・パチ、


またひとつ、暖炉で薪のはぜる音がした。





 日常小道具5題より 「お酒」





ドイツの家で、夕飯をごちそうになったあと、大きなクッションをかかえてソファに沈み、見るともなしに暖炉の炎を眺める。

天井の照明は落として、灯りといえば手元のランプ。

ーーこれが、最近の俺のお気に入りだ。



ゆらゆらと形を変える炎と、時折爆ぜて小さく燃え上がる薪の音。

それを楽しむ俺の隣で、ドイツは大抵本を読む。

読みながら、ぽつりぽつり、と俺と会話をしてくれる。



「ねぇどいつー」

「何だ?」

「今日の薪、いいにおいだねー。俺この匂いすきだなぁ」

「・・・あぁ、今日のはたしか桜だったか。前に日本から少し分けて貰っていた分だな。ーーたしかに、良いにおいだ」

 ぱらり。  ぱちん、ぱち。


 ページをめくる音と、薪のはぜる音とが、呼応して。
 ページをめくった際の風に吹かれたのか、手元のランプに映し出された影が、壁の上でゆらり。とゆれた。


「桜かぁ・・日本が大好きな木だねー。今度俺ん家にも植えようかなぁ」

「・・・いいんじゃないか?きっと日本も喜ぶ」

「えへへ。そうだよねー喜ぶよねー。よし決めた、今度植えよ」


 そういってちらりと隣をみると、ドイツは本に視線を落としたまま、少し笑った。


「あ、笑った」

「・・・馬鹿にしたわけじゃないぞ」

 少し微妙な顔になったドイツがそんな事をいうので、俺まで笑ってしまう。

「わかってるよ。ドイツは人を馬鹿にした笑い方するの下手だもん」

「・・・・・・・誉められたのかけなされたのか」

「誉めたの誉めたの。俺ドイツの笑顔好きなんだー」

 
 言いながらすり、とその肩に頬を寄せると、こら、と頭をつかまれた。
 肩のかわりにその大きな手にすりよって、ふふ、と笑う。


「ねーどいつー」

「何だ?」

「こないだスペイン兄ちゃんのとこでね、すっごい綺麗なお酒のんだのー」

「カクテルか?」

「そう。おみやげにアマレットもっていったらね、作ってくれて。おいしかったなぁ」

「・・・ちょっとしたモノなら作れるが」


 ぱたん、と本を閉じたドイツを見上げると、いつものように、苦笑した顔がそこにあって。


「そんなに時間はかからないはずだから」

 すこし待っていろ。
 
 そういって頭をぽん、としてくれるドイツは、やっぱり優しいとおもった。


「えへへー。じゃぁ待ってるねー。楽しみ!」

 クッションをぎゅー、と抱きしめて、暖炉の火に目を戻す。

 
 いつもよりもピンクの強い炎が、すこし大きくゆれた。
















「ーー待たせたな」


 そういって、台所から帰ってきたドイツがテーブルに置いたグラスの中の色に、思わず感嘆の声がこぼれる。


「すごい・・綺麗」


 そんな俺に、ドイツは少し得意げに笑って、


「青いのがマレーネ・ディートリッヒ。琥珀色のがディサローノ・ジンジャー。好きな方を」

「青いの!」

 ドイツが言い終わる前に、ぱっと顔をあげて言い切ると、相手は少し驚いたようだった。

「も・・もちろん構わないが。ーーそんなに気に入ったのか」

「うん!だってこれ」

 グラスをかかげて、片目越しにドイツをみる。



「ドイツの目の色と一緒だもん」



 名前もドイツっぽいし。



 そういうと、ドイツはすこし目を細めた。照れている時の癖だ。


「確かにドイツ出身の女優をイメージして作られたカクテルだが・・・度がつよいから気をつけろよ」

「はい隊長。ーーーうん、たしかにちょっと強いけど、凄く美味しいよー」

「そうか。じゃぁ俺はディサローノで」


 そういってグラスを取り上げたドイツが、ふとこちらをみやる。

「・・・?どうかした?」

 首をかしげてみせると、ドイツは微かにわらってグラスを目の高さに上げた。
 ドイツの蒼い目が、琥珀の向こうで、不思議な色に揺れている。




「さすがはイタリア製のアマレットだけあるな。ーーーお前の瞳の色だ」




 ーーぱちん。



 薪の音と同時に、大きくはねた鼓動を、耳の奥できいた。

 ドイツは本当に、何の前触れもなく、俺の体の芯を熱くさせることがある。
 多分本人は気付いていないのだろうけど、


 俺の目の色だという酒を、口に含むその姿は、酷く熱を誘うもので。



 
「ねぇどいつー」

「何だ?」

「俺もそれ、飲みたくなった」

「・・・相変わらず我が道を行く奴だな」

「うん、けど飲みたいんだもん。ーーだめ?」

「だめとは言わんが・・それ飲みおわってからにしろ。作ってきてやるから」

 
 そういうドイツの目が、苦笑の中に少し違う色を含んでいたから。
 
 残っていた青い液体を一息にのみほして、グラスを取ろうと延びてきた手を掴む。



「作ってきてくれなくて良いよ」

 言いながらグラスを机におくと、ドイツはすこし眉根をよせた。

「飲みたいと言っただろう」

 少し低い声でそういう相手の、掴んだ手にちゅ、とくちづけ、紅くなっているだろう顔でにこ、と笑ってみせる。

「あのね、ドイツが飲んでるのが飲みたい。新しいのじゃなくて」

「ーーーイタリア、」

 いいのか?


 いつのまにか、俺が掴んでいたはずの手で、俺の手が捕まれていて、

 のぞき込んできた蒼には、俺と同じ類の光がやどっていた。




「ね、ドイツ。飲ませて?」

 


 答えた俺に、ドイツは剣呑な光を湛えた瞳でわらうと、グラスを煽って俺を抱き寄せる。

 
 口中に、甘酸っぱいアマレットの味が広がった。






 日常小道具5題から「お酒」デス。。

 ご本家さまのあまりのラブラブっぷりに当てられました (*´д`*)
 このラブっぷり、胸焼けしそうだぜベイベ☆(逝け


 イタリア視点では初めて書いたのですが 意外に ふつー。
 文才のなさの前には、視点はあんまし関係ないってことです、ね!(あいたたた
 お題がお酒ってことで、少し色気のある文章をめざしてみましたが・・これいかに。
 後ろの画像とか、読みにくかったらスミマセン (・ω・` )


 06.12.19 伊都