ツイッターで個人的に萌え上がったので、ヘタxもやしもんのクロスオーバーパロです。
蛍と芋兄弟のはなし。
時間軸は、もやしはオクフェス後、ヘタはW杯ドイツ優勝後です。
クロスオーバーパロ大丈夫、どんどこいやー!という方のみどうぞ。
【結城蛍のはなし】
その客が来たのは、朝からグングン気温の上がる予感のする、7月のある朝だった。
直射日光が商品に当たらないよう、日差しの角度に気をつけながら、空調の効いた店内を掃き清めた僕は、気合いを入れてガラス戸をひいた。
むわっ、と顔面に吹き付ける熱い空気に、半袖ミニスカートとはいえ、黒の衣装を着ている事を少し後悔する。
「うわ、あっついなぁ…」
顔に汗をかきすぎると、化粧が崩れるから困る。あとで化粧直しをしないといけないのがちょっと面倒だ。
そんな事を考えながら、手にしたほうきとちりとりで店の前を掃きだした時だった。
「ここだよ…って、あれ?名前変わってんぞ」
「代替わりでもしたのか…?」
背後から聞こえた男の声に振り返ると、キラッキラしい二人組が立っていた。
背はふたりともやたら高い。(少しイラっとする)
一人は銀髪に紅い瞳で、ジーンズと少しくたびれた白いTシャツ。
一人は金髪に蒼い瞳で、カーキ色のズボンに、襟だけ茶色のクリーム色ポロシャツ。
どちらも服の上からわかる程、鍛えられた体つきをしていて、金髪の方が少し背が高いようだ。
(外人か…手ぶらだし、あまり観光客っぽくはないけれど)
いずれにせよ、酒屋に用事があって来たのであれば、客に変わりはない。
涼しい店内に戻れる事も多少手伝って、僕はほうきを後手に、にっこりと笑ってみせた。
「お酒を買いに来られたんですか?いらっしゃいませ、ようこそ結城酒店へ!」
「ビール、ですか」
空調の効いた店内に案内すると、二人組もその涼しさにふぅ、と息をついたようだった。
流暢な日本語を操る金髪のいうことには、友人の家に遊びに来て、今夜祝い事の際に飲むビールを調達にきたとの事。
「良く見る日本のビールも悪くはないんだが、どうしてもドイツビールを飲み慣れていると、地ビールが飲みたくなってな。そこに友人が、農大で去年あったオ
クトーバーフェストの事を教えてくれたんだ」
「その時に日本の地ビールの美味いやつを集めて来たのが、この酒屋で買えるかもしんねぇって言うから」
あのオクトーバーフェスト以来、こうして各地の地ビールを求める客が、少しずつではあるけえれど、増えてきている。はなさんのビールも、そうして買って
行って、リピートしてくれる人がいたりして。
「そうでしたか!色々ありますよ、どんなビールがお好きですか?」
自然と笑顔になる僕を見て、二人は赤と青の目を同じように細めてみせた。
まるで孫を見るような、見た目にそぐわない不思議な深い微笑みに見入っていると、金髪の方がとんでもない事を言った。
「そうだな、とりあえずある分全種類貰おうと思っている」
「………は?」
「全種類っつっても、何種類有るんだ?大瓶で30くらいあれば足りると思うんだけどよ」
「………30?」
「兄さん、30で足りるのか?日本はそんなに飲まないとしても、俺と兄さんと、あとイタリアも来るだろう」
「んー、でも爺に一人10本で良いか?って聞いたら、『私の分はノーカンで、30にしてください』って言ってたぜ?」
「そうか、じゃあそうしよう。30本ほど欲しいんだが、銘柄はどんなのがあるか、見せてもらえるか?」
(一人10の換算は日本人にはキツイだろ…ドイツ人って本当にそんなに飲むんだ…!?)
多少笑顔が引きつるのを感じつつ、店で取り扱っているビールの一覧を差し出すと、長身の二人が同じ角度で覗きこむ。でかい所為か、ラミネート加工された
一覧を持っている僕への圧迫感がハンパない。
「ふむ、種類は12か…思ったより多くて驚いたな。じゃあ2本ずつ全部と、オススメがあったらそれを」
「あ、ありがとうございます」
ちゃっかりおすすめにはなさんのビールを入れて、商品を並べるべく裏とカウンターを行き来していた時だった。
「おぉ、来とったんか」
ガラス戸を引いて入ってきた爺さんに、外人二人が振り返り、
「おー、菊二!まだ生きてたんだなー!」
「兄さん、流石にそれは失礼だろ…久しぶりだな、息災でなによりだ」
駆け寄らんばかりの勢いで、銀髪が爺さんの肩を抱いて笑う。爺さんは爺さんで「あんたらは相変わらず変わらんなぁ…まぁそういうもんなんだろうけど
なぁ」と笑っている(ように見える)。
まるで昔からの友人と会った様なその態度に、僕は先ほど感じたのと共通の違和感を感じた。
(ふたりとも、見た目は若いのに、なんていうか、雰囲気が。爺さんと同じなんだよな…)
「えーと、お客さん?30本、出ましたけど」
見た目を除けばまるでどこぞの同窓会の様な空気を出す三人に、30本のビールが所狭しと並んだカウンターの前から声を掛けると、外人と爺さんが揃って振
り向いた。
「あぁ、ありがとう。まずは会計をしないといけないな。兄さん、運ぶ準備を頼んでも?」
「任せとけ!なぁ、瓶運ぶ用の容器あるだろ?あれ二つ貸してくんねぇか。あとで返しに来るからよ」
「あ、はい。ケース売り用のケースがあるので、デポジットで400円頂きますけど」
「Gut !」
レジに向かう前に、カウンター下においてあった空ケースを取り出して手渡すと、兄らしい銀髪がにか、と笑った。それにしても、色は全然似ていないのに、
雰囲気はやはり似ているのだから、兄弟というのは不思議なものだ。
…まぁ、沢木兄と沢木みたいに、見た目結構似てても中身が全然違うってこともあるけど。
ぴ、ぴ、ぴ、と、一覧に併記されたバーコードを読み取っていく傍ら、銀髪は二つのケースに15本ずつビールを収めていく。一本一本ラベルを見ながら、
「お、ピルスナーじゃねぇか!おいヴェスト、ドゥンケルもあるぜ!」と嬉しそうに報告するその様は、見た目相応にも見えるのだが。
「お会計、全部でこちらになります」
「これで頼む」
ポケットから取り出された、折りたたみ一万円札を、カウンターで延ばして受け取る。じゃらじゃらと吐出される小銭をすくい取って、礼と共に金髪の手に乗
せた。…小銭が、僕の手に会った時よりも、さらに小銭に見える。
「今日は日本さんトコで飲み会かね」
「あぁ!ワールドカップで優勝したからな!俺とヴェストが一緒に暮らす様になってから初めての優勝なんだぜ!」
「まぁあんたらに限って滅多なことはないだろうが、わしらの日本さんにあんまり負担をかけんでやっておくれな」
「はは、あいつも愛されてんなぁ!大丈夫、そのへんはちゃんと心得てる」
「いつも心配かけて申し訳ないな…今日は俺もいるから大丈夫だ」
15本のビールが入った、相当に重いであろうケースを、まるで紙袋でも持つかのように抱えた二人は、そんな会話をしながら店のガラス戸を開けた。
途端に滑りこんでくる強烈な日差しと、午前中から大合唱するセミの声。
「夏だなぁー!」
「それじゃ、世話になったな。あとでまたケースと瓶は返しに来る」
眩しそうに目を細めた二人が、振り返って会釈するのに、僕はきちんと頭を下げた。
「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております」
…うん、この不思議な二人組には、また会いたい気がする。
この二人組が、人間ではなく国だと僕が知るのは、二日後空の瓶がつまったケースを返しに来た時になる。
その時にはたまたま沢木も来ていたのだけれど、それはまた別の話。
【おまけ 二人組の話】
「日本各地の地ビール、楽しみだなぁヴェスト!」
隣を歩く兄が、喜びを全面に顔にだしてそう言うのに、ドイツは苦笑して頷いた。じりじりと照りつける日差しの下、歩く度にケースと瓶がぶつかる小さな音
が、セミの声と共演している。
「確かに12種類もあるのは、日本の酒屋でもなかなかないと思う…しかしあの娘、すごい格好だったな…」
すこし遠い瞳になったドイツの台詞に、プロイセンも同意をかえす。
「あー俺もそれは思った…この真夏に、真っ黒のフリルドレスはすげぇよ…でも酒の扱いはちゃんとしてたな。さすが菊二の孫だぜ」
「いや、孫はたしか男じゃなかったか?代替わりした時に見た気がするぞ」
記憶の端に浮かぶ体格のいい酒屋の若者と、今日見た少女は、あまりにも似ていない。
「あ?あぁ、そうだった…え、じゃああの娘は何者なんだ?」
「従業員じゃないのか。あの格好は、まぁ、趣味なんだろ」
「はー…でもまぁ、仕事ちゃんとしてれば、格好は別にいいよな」
「全裸で仕事しないやつが一番ダメだという結論…」
「待てヴェスト、フランスが泣くからやめてやれ!」
「誰もフランスだとは言ってないが?兄さん、フランスの事をそんな風に思っていたのか?」
「ヒデェ!我が弟ながらヒデェ!」
「おふたりとも、お疲れ様でした…って、本当に30本買ってきたんですか!?」
兄弟同士の気のおけないやりとりは、家の前に迎えに出てきた家主の驚きの声で遮られた。
「もちろんだぜ!今日は飲むぞ―!」
「心配するな日本、ちゃんと飲みきれる量だ」
「別の意味で心配ですよ!?」
焦ったような日本の声に、セミの声がひときわ高く響く。
始まったばかりの夏の一日は、長くなりそうだ。
おしまい。
14.07.23 伊都