【注意書き】

 このお話には男性同士の性描写が含まれます。
 18歳以上の素敵に腐った発酵中のお姉様向けです。
 まだ発酵まで行ってない方や、年齢の届かない方はそっとウィンドウを閉じて下さい。



 オッケー大丈夫まかせて醸す!という方はスクロールどぞー。




































『ドイツさんが、随分お疲れみたいで』
 イタリア君さえ良ければ、行って休ませてあげてくれませんか?

 遠く離れたアジアの友人からそんな電話を受けて、俺はその日のうちに飛行機に飛び乗った。




 2ヶ月前の会議以来、時折の電話でしか接触出来ていなかったドイツが、どれだけ忙しかったか。
 玄関のベルを鳴らして、出て来た相手の顔を見ただけで、それがはっきりと解った。

「ちょ・・顔色酷いじゃんか!ちゃんと食べてないだろ、寧ろ寝てるの!?」

 自分の顔を見るなり、深いため息を付いて壁に手をついたドイツに駆け寄る。
 暫く見ないうちに少し減ったらしいムキムキの向こうに見えた部屋の様子に、思わず目を見張った。

(あの、綺麗好きのドイツが!)

 いつもならきちんと定位置に収まっているはずのクッションは、ソファの端に無造作に置かれていて。
 しかもその上に脱ぎ捨てられたジャケットが放置された有様。
 余計な物は一切置かれていないはずの机の上には、ペンやカップがそのままにされている。

「ドイツ、仕事は?一段落したの?」
 笑みを浮かべることもできず真剣な顔でそう問うと、頭上からは疲れきった声で「ああ」と肯定の返事。
「部下に必要な書類を送って、今から休もうと思っていた」
 見上げた顔には、隠しようの無い疲労の色。

「じゃあ今すぐ寝て!俺ご飯作って片付けとくから、今すぐ!」

 ぐいぐい、とその身体を押しながら言えば、「い、イタリア?」と困惑した声で名前を呼ばれて。
「お前、何か用事があって来たんじゃないのか?」
 背中を自分が押している所為で、顔だけ振り返ってそういう相手に、にこりと笑ってみせる。

「俺は、ドイツを休ませる為に来たんだよ!もう、もっと早く呼んでくれれば良かったのに」

 言いながらも相手を寝室へと押しやり、ベッドに押し込んで布団をかけた。
 ドイツも疲れきっていた所為か、おとなしく従う。
 枕に乗せた頭をわしわし、と撫でて、オールバックを崩すと、イタリア、と名前を呼ばれた。
「なに?ドイツ」
「・・・日本、か?」
 ぽそ、と呟かれた友人の名前に、一瞬ぽかん、として。
 あ、今日俺に行けっていった人の事かな?と思い当たる。
「あ、うん、そうだよ。日本が電話くれたの。つかれてるみたいだから、休ませてあげて下さいって。やっぱアジアからは遠いしね、俺だったら暇だしすぐ行け るからかな」
 そういうと、ドイツは目を閉じたまま苦笑して、いや、あいつは知ってるから。と呟いた。
「知ってるって・・何を?」
 ドイツの事で、日本が知っていて、俺が知らない事がある。
 その事実に胸の奥がちり、と嫌な音をあげた。一体何を知っているのかと問えば、意外にもドイツはあっさりと口を開く。

「俺が、イタリアの事を好きだと」

 そのあっさりさも意外だったが、寧ろその内容に、俺は心底驚いた。

「あ・・・え、ドイツ?えと、俺もドイツが大好きだけど、それってどういう」
 意味も無くわたわたしながら尋ねると、閉じられていた目蓋が開いて、菫色の目が不思議そうに自分を映して。
「何だ、知らなかったのか?俺はとっくに知ってる物だと」
「え、だって、何を?俺の事好きってどういうーー」
「世界でただ一人の特別、という意味で、だ」
 事も無げに囁かれた言葉に、俺の頭は真っ白になる。

(だって、ドイツは友達で、俺はドイツの事大好きで、ドイツも俺の事好きだって、でもそういう意味で好きって)

 枕元に膝をついたまま目を白黒させていると、くす、と笑ったドイツの静かな声がした。

「そんな顔をするな。俺はお前が好きだが、お前とどうこうなろうとか、お前に何か求めるつもりはないから」
 嫌なら、今すぐ忘れてくれてかまわない。

「え」

 告げられた言葉の意味が理解出来なくて、ぽかんとした顔になる。
 その顔すら、目蓋を閉じてしまったドイツの目には映っていないらしく。
「すまん、言葉に甘えて休ませてもらうから・・・片付けは・・起きてからする」
 それだけ言うと、限界だったらしいドイツはすぅすぅと寝息をたて始めてしまった。

 残された俺はといえば、

「忘れろって・・・・なんだよそれ・・・」

 情けない顔を自覚しながら、そう呟くしか無かった。












 はっと気がついた時、俺は戸棚の前で、綺麗に並べられた銀のナイフを磨いていた。
 おそるおそる振り返れば、瞳に映るのは、チリ一つなく磨き上げられた室内。
 訪問時の雑然とした様子が嘘の様に、ショールームかってくらいに整えられた空間を作ったのは、もちろん妖精さんとかではなくて、俺だ。

 ・・・自慢ではないけれど、掃除は得意、なのだ。

 百年単位でオーストリアさん家の掃除をしていた事もあって、特にゲルマン系の好む掃除の仕方を知ってる。
 もちろん家ではそんな面倒くさいことしないし、ドイツの家でもした事がない。

 してみせたら、褒めてくれるんだろうな、とは思う。けど。

(わざとちょっと手直しされるくらいにしておいた方が、ドイツ構ってくれるんだもん)

 そこまで考えて、俺は意識を飛ばしていた原因を思い出した。


 そう、いつもならわざと手を抜いてする掃除を、無意識に完璧にやってしまう程、掃除の間の俺は意識を飛ばしていた。

(だって、ドイツがあんな事いうから・・・!!)

『好きだ』
『世界でただ一人の特別、という意味で』

 思い出しただけで、頬に熱がこもる。
 もちろん、ずっと友達だと思ってたドイツからいきなりそんな告白されて、驚いた、でも。

 その何倍も、ーーー嬉しかったんだ。

 時々狙いがずれて唇をかすめるキスも、ハグの間に背中に回された大きな手も、頭を撫でてもらう時にくるんに指があたっちゃった時も、ドキドキはしたけ ど、イヤじゃなかった。
 今になって考えてみれば、自分がドイツを特別だと思ってた事なんて、あからさますぎて自分で引くくらい明白だ。まぁよくも友達だなんて信じてたもんだ。

 こんなに、好きなのに。

 ドイツの事が、そういう意味で、すごく好きだと。
 ドイツの言葉で気付いた俺は、でも同じ様にドイツの言葉で途方に暮れていて。


『お前に何か求めるつもりはないから』


 全くなんでも無い事の様に、さらっと言われた台詞だったけど。
 俺の事が好きだと言ったその口が、俺に何も期待しないと、そう言った事に、俺は酷くショックを受けていた。

(だって、好きだって思ったら普通相手にも好きになってほしいものじゃないの!?)

 まるで、最初から完全に諦めてるみたいに。
 ドイツは、俺がドイツを、そういう意味で好きになるなんて、これっぽっちも考えてないみたいだ。


「何で?おかしいだろそんなの。本当に好きなら、もっとガンガン欲しくなるだろ!?変だよ求めろよ好きならさ!!」




「何を求めろと言うんだ」



 突然背後から聴こえた返事に、びくん、と肩をふるわせた俺の手から、銀のナイフがすべりおちた。

「!!」
「ーーーっ何をしてるんだお前は!」

 コッ、と軽い音をたてたナイフは、ワックスの塗られた木の床に垂直に立って。
 俺は、さっきまで自分の足が在った所に突き刺さるナイフに背筋が凍るやら、抱き寄せられた腕の力強さに動悸が大変な事になるやらで、頭の中はパニック だ。
 その上背中に触れる厚い胸板から伝わる熱や、腰に回されたたくましい腕に、心拍数は上がる一方。

「ど・・ドイツ、起きた、んだ」
 真っ赤になった顔を見られたくなくて、振り向くこともできずにそう言うと、耳元をため息がかすめて、身体を解放された。
 離れてゆくぬくもりを残念に思いながらそっと振り返ると、ドイツはチリ一つなく片付いた部屋を見回していて。

「・・・なぁイタリア」
 不思議そうな声で名前を呼ばれて、俺は何か、と首を傾げる。
「俺は、お前が来てすぐ寝たと思ったんだが・・・寝る前に掃除までしてたか?」
 お前がしたにしては綺麗すぎる。

 そう断言する相手に、俺は眉尻を下げた。
「ひどいなぁドイツ、俺がんばって掃除したんだよ?俺の事好きなら褒めてくれたって良いじゃん」
 苦笑して言った言葉は、自分でも意外なそれで。言ってしまった後に思わず口を覆う。

 ドイツは、どんな顔してるだろう。

 おそるおそる見上げた先には、

「やれば出来るんじゃないか、イタリア。助かった、ありがとう。・・・しかしこれだけ綺麗にしてもらって、好き嫌いは関係ないだろう?大体、俺がお前に惚 れている事とは別問題だ」
 至極当たり前の事を言う様に、『関係ない』と言い切るドイツの顔は、本当にいつも通りだ。
「だ・・でも、だって、じゃあ」
 言いたい事が喉の辺りで渦をまいて、上手く出てこない。
 意味の無い接続語ばかりを並べる俺を落ち着かせる様に、ドイツの大きな手が、俺の肩をぽん、と叩いた。

「落ち着けイタリア。・・・寝る前に言ったと思ったが、俺はお前とどうこうなろうなどとは思ってない。友人だと思ってくれていさえすればそれで」
「おかしいよそんなの!だって、好きなら両思いになりたいとか思うじゃん普通!俺が、ドイツの事ただの友達だと思ってて、それで満足なの!?」
 思わず口調を荒げてそう言うと、ドイツは俺の言っている意味がわからない、という顔をした。
「どうしたんだイタリア。何がそんなに気に入らないんだ?俺はお前に何も要求しないと言ってるだろう」
「それが気に入らないの!!何でだよ、俺に惚れてるのに、俺から好かれたいと思わないのとか、意味わかんないよ」

「お前に好かれたいと思ってどうなるんだ」

 激高した訳でもなく、怒りを押し殺した訳でもなく、ただただ静かに、あまりにも普通の声音でそう返されて、俺は言葉を失った。

「どう、なるって・・・」
「あのなイタリア、俺は確かにお前に惚れてる。だがそれは俺側の話であって、お前には関係ない。お前がどんなヘタレだろうが、女好きだろうが、誰とつきあ おうが、俺はただお前を好きで居るだけだ」

 イタリアという存在さえあれば、一人でも恋は出来る。

 そう、言い切ったドイツの目は、認めたくないけれど、完全に正気だった。


「そ・・・それじゃ、ドイツには、俺の気持ちは、関係ないの?」

 なんだか、足元の床がゆるゆると崩れて行く感じがする。
 何だろう、絶対に何かがおかしいのに、あまりにも相手が冷静すぎて、自分の方が間違ってるのかな、と思ってしまう様な。
 それでも、喉のあたりに渦巻く思いは、ぽろぽろと口からこぼれ落ちた。

「俺が、ドイツをそういう意味で好きだと言っても、ドイツには何の意味もないの?」

 静かな部屋にその言葉が響いた瞬間、ドイツの目がわずかに、でも確かに大きくなった。
 ようやく自分の言葉に相手が見せた反応に、すがる様な気持ちで良い募る。

「ドイツは、俺がもし誰かを好きになったとしても、俺の事を想ってくれるって言った。じゃあ。俺がお前を好きなら?お前と同じ気持ちだって言ったら、喜ん でくれるの?それともーーー同じ気持ちですら、お前には関係ない・・?」
「関係無いはずないだろう!」

 突然語意を強めたドイツに、俺はびく、と肩をふるわせた。ーーー今日二回目だ。
 そんな俺を2秒くらいじ、と見つめて、ドイツは目をそらす。
 そして、さっきまでの飄々とした顔が嘘の様に、苦しげな表情をうかべて口を開いた。

「イタリア、そういう事を軽々しく言わないでくれーーーたとえ仮定であっても、だ。俺は、俺がお前に向ける気持ちが、お前のそれと違うと自覚した時から、 覚悟してるんだ。必死で自分に言い聞かせて、ようやく心からお前が幸せならいいと、思える様になったんだ。それを・・仮定でも、友人としてではなく好きだ と言われて、ゆさぶられてはーーー」
「好きだよドイツ。俺は、『世界でただ一人の特別』って意味で、お前の事好きだよ」
「イタリア!」
 避難の色を隠そうともしないドイツの声に、それでも俺は食い下がる。
「ドイツのバカ、何で勝手に諦めちゃうんだよ!俺、やっとわかったんだ。お前に、そういう意味で好きだって言われてすごく嬉しかったよ。ドイツの心に、ま だゆさぶられる余地があるなら、いくらでも言う。俺はドイツが好き、好きだから俺だけ見ててほしいと思うし、ドイツにもそう思ってほしいよ。俺の事もっと 欲しいと思ってよ、自分に言い聞かせたりしないで、正直に俺が欲しいって言えよ」

 ドイツが望んでくれるなら、俺はドイツのものだよ。

 言い終わるか終わらないか、凄い力で抱きしめられた。
 ドイツのムキムキが容赦なく抱きしめてくる所為で、正直言うと結構ーーいやかなり、痛いけど。
 さっきまで崩れて行くみたいだった足元が、ようやく地についた様に感じて、俺はドイツの背に腕を回した。

 ドイツの温かい腕の中が気持ちよくて、思わずほぅ、と息をついた頃。
 それまで黙って抱きしめて来ていたドイツが、ぽつりと呟く。

「イタリア、さっきのは本気か?」

 ドイツの台詞の中の「さっきの」がどれをさすのかよくわからなくて、俺は2、3度瞬いた。
「えーと、さっきのってどれの事か分かんないけど、ドイツが起きて来てから言った事は全部本当だよ」
 とりあえずそう返すと、抱きしめられていた腕が少し緩んで、ドイツの大きな手が頬に添えられた。
「ど、いつ・・?」
 優しい仕草で、そっと上を向かされると、ドイツがじっと俺を見ていた。
(か、っこいい、けど、はずかしい・・!!)
 思わずかぁ、と熱くなる頬を自覚する。
 
 それでも、自分をじっと見てくる菫色の瞳から、目が離せない。
 
「確かめたい、と言ったら、怒るか?」
 切なげに少し細められた瞳の奥には、自分に向う欲の色が確かに浮かんでいて。
「お・・おこんない、よ。ただ」
「ただ?」
 心臓が破裂しそうにドキドキして、上手く言葉がでてこない。
(ドイツってこんなに格好よかった・・!?)
 そっと続きを促すドイツが、いつの間にか距離を縮めて、額同士がこつんとぶつかった。
 鼻先が触れそうな距離に目を白黒させながら、必死に続きを口にする。

「ただ、その、お、俺初めてだし、今でもこんなに、えと、ドキドキしてる、のに、お前に触られたら、もう死んじゃうかーー」
 も、と続けようとした言葉は、言ったつもりだったのに声にならなくて。
 あれ、と思った瞬間唇に感じた温かさと、目の前にまつげが数えられるくらい近づいたドイツの瞳。
(わぁ、まつげ金色だ・・・)
 そう思ったのもつかの間、ぬる、とした温かい物が口の中に入って来て、思わず背筋が震えた。

「ん、ちょ、ドイ・・ぁふ、」
 なんとかドイツの名前を呼ぼうとしても、息継ぎの合間に口から漏れる声は、全然名詞になってない。
 しかも静かな部屋にちゅく、ちゅ、とやらしい音が響いて、滅茶苦茶恥ずかしい。

 それでも、俺が欲しいって全身で言ってくるドイツを、拒む事なんて出来ない。

 結局始めてのディープキスに俺も夢中になって、ようやく唇が離れた時には、完全にドイツに支えてもらう形になっていた。
 頭の芯がじーん、てしびれた感じがして、体中がなんだかふわふわする。
「ーーはぁ、はぁ、ど、いつ、ズルいよ・・」
 上がってしまった息を整えながらそう言うと、ドイツは何故かちょっと表情を堅くして、なぜだ、と聴いてきた。
「だ、って俺、もう足ガクガクなのに、お前は俺を支える余裕があるなんて、ズルい」
 俺だって男なのに、と悔しくてちょっと上にある顔を睨んだ途端、

「ヴェ!?」

 ぐる、と世界が回って、思わず手の届く所に在ったドイツの首にぎゅっと腕を回した。
 そのまま歩き出したドイツの眉間に、皺が2本できてるのを見つけて、俺はへにゃりと眉を下げる。

「ね、ねぇドイツ」
 俺を抱えたまま(落ち着いて見ればこれ、お姫様だっこってやつだよね・・・?)応接間を出るドイツに、おそるおそる声をかけると、何故かちょっと疲れた 様な顔でドイツが俺を見た。
「どうした?」
 呼ぶだけ呼んで何も言わない俺に、ドイツは歩を停めて尋ねる。

「えっと、その、お・・・怒った?」
 
 ちょっと泣きそうになりながらそう訊くと、目の前の菫色がぱちぱち、とまばたきをして、
「は?」
 今度は何だそれ、という顔になった。
 そのあきれ顔に、怒ったんじゃなくて、呆れちゃったのかな、と思うと、じわ、と涙が浮かんでくる。

「ちょ、おい、イタリア。なんでそんな泣きそうなんだ、嫌だったのか・・?」
 大体怒った、って何だ。俺がか?

 顔を伏せてぐすん、と鼻をすすると、頭上からドイツの慌てた声がして、俺はこくん、と頷いた。

「お、俺が、ズルいなんて言ったから、怒ったんだろ・・?キ、キスも、あれだけで腰ぬかして、情けないって、呆れたんだぁ・・・」
 み、眉間の皺だって、さっきまでなかったのに、出来てるもん。絶対怒ってるーー

 口にするとどんどん悲しくなって、涙がぽろぽろ出て来たので、とりあえず手近にあったドイツのシャツに顔を押し付けた。
 汚しちゃうとまた怒られるかな、とも思ったけど、それよりも、いきなり怒ったドイツに仕返しする意味で、汚してやる、と、たくましい肩口に顔をぐいぐい と押し付ける。
 さっきまで寝てた所為か、少し汗の匂いのするシャツに、くらくらしそうになりながら涙を拭いていると、突然全身を凄い圧が包み込んだ。

「ヴェ!?」

 頭をぐいぐいと肩に押し付けられて、ようやく横抱きのまま抱きしめられてる事に気付く。
 しかも、これ、首筋になんか温かいのがあたるのは、もしかして。

「まったく、バカだバカだと思ってたが、本当にここまでとは」

 ドイツの台詞と一緒に、吐息が首筋を撫でる。そしてまた温かい物が、ちゅ、て音をたてて触れて、背筋がぞくぞくした。
(首筋に、キスーーー!)
 しかも首筋のすぐ近くには、くるん、が。

「なぁイタリア、さっきの台詞はな」
 ドイツが話す度に、くるんに吐息が掛かって、どうしても肩が小さく揺れる。息があがっていく。

「お前を愛してるって言って、寝室に連れ込もうとしてる奴に言う台詞じゃないぞ」
「ーーぁひゃう、ん!」
 極めつけにくるんをぱく、と唇で挟まれて、一瞬目の前が真っ白になった。

 なんとかドイツのシャツを握りしめている手が、がくがくと震える。
 もう、我慢できない。

「ドイツ、どいつ、ね、もうお願いーー」
 ぎゅ、ってして、キスして、俺に全部ちょーだい、一つになりたい、

 言い終えるか終えないか、ふわ、と身体が一瞬宙を舞って、


「もちろん、そのつもりだ」


 ドイツの匂いのするベッドで、ドイツに押し倒されて、もうそれだけでイッちゃいそうになって、俺は必死でこらえた。
(だって、初めてなのに始まる前からいっちゃうとか、無いだろ俺!)

 そんな俺の我慢とか努力とか、滅多にしない頑張りを、ドイツは全然無視してくす、と笑う。
 その笑顔に目を奪われていると、次の瞬間噛み付く様なキスが降って来た。


 唇も、首筋も、胸も腹も背中も、足まで、ドイツの舌がずっと皮膚の上を行き来する。
 舌だけじゃなくて、長い指が、大きな手が、体中を撫でて、俺はもう、身体をふるわせる事しか出来ない。
 始まったときから勃ちっぱなしのそれは、先端からずっとトロトロ先走ってるのに、一度もイッてない所為で、もう、かなりキツい。

「ね、ドイ、ツ、お願い、イかせてぇ・・!!」

 あとちょっと、キーになる所にドイツがキスしてくれたら、もうすぐにでもイけるのに。
 中途半端な快感が、こんなに苦しいなんて、思っても見なかった。
 もうだめ、そう思って、自分でどうにかしようと手を伸ばしても、すかさずドイツの大きな手に捕らえられてしまう。

「どうした、そんなに手が繋ぎたかったか?」
 にこ、と笑って手を握りしめてくるドイツの顔が、涙でかすんでよく見えない。
 その力強さにすら、もう中心が波打つ。
「お、おねがい、もう、がまん、出来ない、どいつ、ドイツーーーっ!」
 頭を降る度に、涙がぽろぽろと落ちる。
「も、気持ち、よすぎて、お、おかしくなる!ね、なんでも、するからぁ・・・!!」
 そう言った瞬間、ドイツの目がす、と細くなった気がしたけど、もう何も考えられない。
 繋がれてない方の震える手を、なんとかドイツに伸ばすと、こっちもぎゅ、と握りしめられた。

「イタリア、約束できるか?」
「や、くそく・・・?」
 いつの間にか目の前にある菫色を、かすんだ視界の中心にあわせる。
「出来るなら、イかせてやる。約束出来るな?」
「うん、やくそく、する、できるっ・・!!」
 あれ、でも約束って、中身は?
 ぼぉ、とした頭でそう思った瞬間、ドイツの両手が凄い力で俺の両手をベッドにつなぎ止めた。

「俺以外の奴に好きとか言わない。笑顔をむやみに振りまかない。肌をみせない。キスしない。セックスもしない。俺の前以外で泣かない、何かあったら俺を呼 ぶ。ーーー俺を、嫌いにならない」
 全部約束出来るなら、イかせてやる。

 ぱちぱち、と瞬きをした所為でクリアになった視界の真ん中で、ドイツが真剣な顔で俺を見下ろしていた。
 俺はといえばーーー笑ってしまう。

「バカだなぁドイツ。そんなの、出来るに決まってる」
 ドイツに嫌われたら、俺死んじゃうよ。嫌いになるのは、まぁ無いだろうけど、死んだ後ならあり得るかもね。

 つまり、生きてる間はずっと好き。

 言った瞬間、唇へのキスとくるんへの愛撫と腹部への愛撫がいっぺんに襲って来て、張りつめていた俺の中心はあっけなく決壊してしまったのだった。
 
 自分でする時には絶対出ない量の精液が、俺とドイツのお腹に飛び散る。
 しばらく声も出ないくらいの快感。息をするのがやっと、なくらい、気持ちよかった。

 相手の居るセックスが、こんなに気持ち良いなんて、想像なんか目じゃない。
 すごく気持ちよかった、ってドイツにも伝えたくて、なんとか整い始めた呼吸を続けながらドイツを見上げると、

 ドイツは何故か、真顔で俺を見下ろしていた。

「ど・・ドイ、ツ・・?どうしたの?えっと、その、気持ち悪かった?俺、なんか変な声だしてたし、俺ばっか気持ちよくて、でもドイツが嫌だったなら、え とーー」
 言い終わる前に、ドイツがとった行動に、俺は言葉を失う。
 
 お腹のあたりにぶちまけられた、俺の精液を、ドイツの親指が拭ってーーー舐めた。

「あ・・う・・・ど・・ドイツ何やってんの!?そ・・そんなん舐めるとか汚っーーー!!」
「イタリア」
 頭の血管切れるんじゃないかってくらい、顔を真っ赤にして講義しようとした俺の台詞は、ドイツのたった4文字の言葉で遮られた。

「な・・なに、ドイツ」
 俺に見せつける様に親指をもう一度舐めてみせる、その色気にくらくらする。
(なにこの人本当にドイツなの!?この売る程余ってる色気はナニゴト!?)

「お前のイく時の顔、ヤバいぞイタリア。ーー見てるだけで、持って行かれそうになった」
 あれは嵌るな・・・もう一回イクか?

 舐めてみせたのとは別の方の手で唇をなぞられて、びく、と身体が震えた。
 震えたついでに、中心がまた元気になったのを感じて、なんだか泣きたくなる。

「や・・やっぱズルいよドイツ。何だよその色気、いつもストイックな癖に笑顔とかちょーエロいじゃん。そんな顔で言われたら、俺どーしよーもないよ」
 お、俺だって男なのに、負けてばっかりだ。

 そう言うと、ドイツは何故か声を上げて笑う。
「バカだなイタリア、エロさで言ったら俺がお前に敵うはずないだろ。イク時の顔だけで相手に射精させるなんて技、俺には到底無理だ」
 さっきはなんとかこらえたが、次は多分持って行かれるな。

 そう言うドイツの下半身にちら、と目をやってーーー目を疑った。
(なにアレでっかーーっていうか超やる気満々だし・・・ドイツ、俺、で、こんななってんの!?)
 思わずじっと凝視していると、困った様な声でドイツが俺の名を呼んだ。

「あんまり見られてるととって喰われそうだ」
 冗談ぽく言ったドイツの台詞に、俺の中の欲望がむくむくと大きくなる。

 ひとつに、なりたい。

(いやでもあんな大きいの入れたら俺のケツ裂けちゃうかもだけどでも絶対気持ち良いと思うんだよねうぅぅでもちょっと怖いでも欲しい!)

 でもでもでも。
 頭の中でぐるぐる接続詞が回って、何回目かの回転を俺は滅多に使わない気合いで止めた。

「うん、やっぱほしい!」
 出て来た結論だけを率直に伝えると、ドイツが目を丸くした。
「い・・イタリア?その・・欲しい、といわれてもだな、お前のやつも、その、サイズ的には標準というか、それが出来てたら世の中男の悩みは半減すると思う が」
 非常に気まずい顔でそんな事をいうドイツに、俺は首を傾げてみせる。
「何言ってんのドイツ。ドイツが言ったんだろ、次は多分、その、持って行かれるって。だから、えーと、どうせなら、一緒にイきたいなって、思って」
 そんで、一つに、なれたら、気持ち良いだろうなーって。

 言った途端に、頭の横にボス、と何かが降って来た。
 身体にも重さを感じて、なんとか横を見れば、ドイツが俺を下敷きにする形でベッドに倒れ込んでいる。

「ど、ドイツどしたの!?あ、ずっと腕で支えてたからつかれちゃった?えっと、上と下と交換する?」
「騎乗位は魅力的だが今は遠慮する。お前はもっと考えてから物をしゃべれ」
 くぐもった声で即答されて、ヴェー、と我ながら情けない声が出た。

(だ、ってこの体勢、さっきより密着してて、温かいのは良いんだけど、その、さっきのドイツのアレが、めっちゃ太ももにあたってるんですけ、ど・・!!)

 意識した途端にむくむくと元気になるこの息子ってもう、何なのかな!
 しかもこんな密着した状態で元気になったら、ドイツにも筒抜けって事だよね・・!?
 
 思っただけで顔に熱があつまるのを感じて、なんとかどいてもらおうとドイツの名前を呼ぼうとした、瞬間。
 す、と身体を撫でた空気に、ドイツが離れたのを感じて少し寂しくなったのもつかのま、

「ーーぁあん!」

 立ち上がった中心をそっと撫でられて、背中が弓ぞりになった。

「や、ど、ちょ、ーーん、だめぇ!」
 しかも俺の腹を撫でた手が、さっき出した液を集めたと思うと、そのまま穴の方にあてがわれて、
「あ、あぁ、う・・あん!!」
 入り口をちょっと撫でてからつぷ、と入って来た指の圧迫感に、知らず眉をひそめる。

「大丈夫か?」
 心配そうな声でそう聴かれて、こくこくと首を縦に振った。
「苦しい、けど、だいじょぶ・・」
 さっきイッた時の快感を思い出しただけで、身体に灯った火が大きく揺れる。
 少し慣れて来た指の存在感にほっと息を吐いた時だった。

「ーーーーーーぅひゃうぁ!!」

 目の前が、また真っ白になった。
 何が起きたのか分からない。なんかドイツの指がすごいトコ突いたみたい。
 なんか怖い、そう言おうとしてドイツを見ると、ギラギラした目が俺の事を見てて、声が詰まった。

「ふむ、ここか、分かった」
「わ、かったって、なにが・・?」
 
 訊いてから、やめときゃ良かったと思った。

「ここだろ?イタリア」
 言った途端、さっきの所をぐりぐりされて、目の前がチカチカして何が何だかわからなくなる。
 口からは何か良く分かんない声しか出ない。

「あ、あ、だ、ダメ、やめ、てぇ、や、あぁん、あーーー!!」

 いつの間にか指が増えてる事に、引き抜かれて気がついた。
 急に無くなった存在感に、酷く寂しさを感じる。

 何で抜くの、と訊こうとした矢先、指とは比べ物にならない熱いものをあてがわれて、背筋がまたぞくぞくした。

(いよいよ、だーー)

 足を広げられて、膝の裏から支えられて思い切り背を丸める格好にされる。
 穴が丸見えの格好だ、って気付いて恥ずかしさがこみ上げて来たけど、ドイツの顔を見たら文句なんてどこかに吹っ飛んでしまって。

 くずれた髪がかかる額に汗を浮かせて、眉間に皺を寄せて目を閉じてるドイツの、顔。
(あぁ、感じてるんだ)

 俺で、感じてくれてる。
 その歓喜に心が震えて、心臓の鼓動が跳ねたときだった。


 ドイツが、来た。



(い・・・痛い痛いイタイ!!いーたーいーー!!!)

 裂ける!いやコレ間違いなく裂けた!マジ痛い!!

 痛くて言葉にならないって、本当にあるんですね。
 そんな現実逃避をしてしまいたくなるくらい、ドイツのは大きくて、指でならしてたとはいえ、メチャクチャに痛かった。
 声も出せずに、ぎゅっと閉じた目蓋から、涙がぽろぽろ落ちる俺に、ドイツの心配そうな声が降ってくる。

「い、イタリア、大丈夫か・・?」
 そっと目を開けると、自分の方が痛そうな(実際少しは痛いのかも。その、狭いし。)ドイツの顔が目の前に在って。
 こぼれた涙をドイツの舌が優しく舐め取ってくれて、俺は少し笑ってしまった。だっていつもキスもしてくれないのに、涙を舐めてくれるとか。

 幸せすぎる。

「だいじょーぶ、だよ。ぜんぶ、はいった?」
 まぁ笑顔が引きつってしまうのは仕方ないと思う。
 だって痛いし。

 そう思っていると、「ちょっと待て」と言ったドイツが、少し体勢を換えて、ちょっと腰を進めた、途端。

「ーーっあぁ!」
 自分でもどーなの、てくらい感じてる声がした。
 ドイツの硬くてぐりぐりしたのが、さっきまで指でぐいぐいされてた所を思い切り突いてくる。
 指なんか比べ物にならない、熱くて、痛みなんか吹き飛ぶくらい、気持ち良い!

「や、ドイツ、ーーな、なに、これ・・!!」
 ドイツが腰を動かす度に強度を増して行く様な快感に、思わず目の前の肩にしがみついた。
 ぎゅう、と肩を掴む手に力を入れると、ドイツの手が俺の手を外そうとしてくる。

「やだ、は、ずさ、ない、でぇ!」
 ほとんど泣きながら言うと、「違う、掴むんじゃなくてまわせ」と耳元で上ずった声がした。
 ちゃんと返事をしてくれた事に少し安心して、言われた通りドイツの太い首に腕を回して抱きつくと、背中とベッドの間にドイツの手が入って、

「うあぁ!!?」

 ぐい、と持ち上げられた。
 体勢が変わって、重力でドイツのものが、ずずず、て俺の中に入ってくる。
「・・お、きいよぉ、ドイ、ツ・・!!」
 もの凄く奥まで届いてる感じがする。
 これ直腸通り越してんじゃね?と思うくらいの圧迫感。さっきまで突かれてた気持ちいいポイントは、今度は幹の方で擦られるだけだけど、敏感になってる俺 には十分な刺激で。
 そのまま動き出したドイツに、もう何も伝えられない。
 口から漏れるのは、感じきった喘ぎばっかり。

 それでも、ドイツの動きが激しくなるにつれて、俺も絶頂に向って身体がわななき始める。
「あ、ど、・・ドイツっ!やだ、あ、・・・っくる、クる・・イッちゃうぅー!」
 ひときわ大きく引いて、奥まで突っ込んで来たドイツの動きに併せて、俺の中心も思い切り噴いた。

 繋がったまま、倒れ込む様にベッドに転がって、ドイツの腕の中で目を閉じる。
 どく、どくん、と、お腹の中でドイツのが液を吐き出しているのを感じて、びくん、と背筋が震えるのを感じたのか、ドイツが頭の上でくすりと笑った。

「な・・なんだよドイツ、笑うなよ」
 お腹の周りは俺の出したのでべちょべちょだし、穴の方からはドイツの出したのが溢れ出して来てべちょべちょ。
「あーあ、これ掃除大変だぁ・・・ぅんっ」
 最後に声がもれちゃったのは、ドイツが前ぶれなく抜いた所為。
 途端に襲ってくる喪失感に、抜くなら言えよ、と抗議しようとした俺の言葉は、ドイツにぎゅう、と頭を抱き込まれて出てこられなくなった。
「えと、ドイツ?」
「笑うなという方が無理だろ」
 頭の上から降って来た言葉に、思わず動きが止まる。

(やっぱ俺、初めてだったからなんかやらかした、の、かな・・!?)

 愛想つかされたらどうしよう、と青ざめていると、そんな俺に気付く事無くドイツがくつくつと笑い出した。
「イタリア、俺はな、幸せすぎてどうしよう、という時にまで仏頂面出来る奴じゃないんだ。お前に好きだと言ってもらえて、こうしてお前を抱いて、こんな幸 せ笑わずに居られるか」
 しかしこれはまずい、明日になっても顔がにやけてたら、流石に周りに突っ込まれるな。
 抱きしめられている所為で、ドイツの台詞が体中に巡る。
 そして笑い続けるドイツの言葉の意味が分かったところで、俺もじわじわと笑いがこみ上げて来た。

「ふ・・そ、それは、確かに笑えるかも!俺も、すげー幸せだもん、あはは、なんだこれ、とまんないよー」
「くすぐるなバカ、俺の方こそ、とまらないんだぞ」

 そして俺たちはしばらく、2人でバカみたいに笑っていた。


 


 それから2人で風呂に入って掃除をして、ドイツは疲れがまだとれきってなかったのか、夕飯を食べてまた眠ってしまって、俺は夕飯の片付けをして家に帰っ てーーー

 夜中にドイツの家に転がり込んで、バカじゃないの、ってくらい、朝までいっぱいシた。
 幸せすぎて、2人とも笑いながら、俺は時々泣きながら、いっぱいやった。
 
 
 そうして、俺たちは恋人になった。


 ドイツは相変わらず怒ると怖いし、真面目だし、俺は俺で相変わらず昼寝とパスタが大好きで、時々仕事をさぼってはドイツに怒られている。
 たまーにだけど喧嘩もするし、飲みに行って他の奴らもいっしょにバカ騒ぎもする。


 そうやって、俺は今日も元気に生きている。
 生きているということは、つまり、

「ドイツの事が大好きって事だよ!」
 ソファの隣に座ったドイツの頬にちゅ、と唇を寄せて言えば、少し照れた顔のドイツがこっちを見て、
「あぁ、知ってるーーー俺もだ」
 俺の頭をぎゅっと抱き寄せてそう言う。


 そんで俺たちは今日も笑う。
 幸せだから、いっぱい笑う。


(あぁどうしよう、笑いが止まらないや!)




 おしまい。



 エロっちいものに挑戦!
 始め三人称で書いてたのですが、途中うーん、と思って伊目線に換えて、それからエロに入ったのでちょっと焦りました。
 でも受け目線のエロ、意外に書きやすかったかもしれません(笑)

 11.08.21 伊都