「何か質問はない?ーーーそれじゃちょっと早いけど講義を終わります」

 出席表は前にだしといてねー、という講師の声をBGMに、生徒のざわめきがそのボリュームを増した。

「ーーーーーおい、起きろイタリア。講義終わったぞ」
「・・・・ふぇ?」

 隣で爆睡していた茶色の頭を、かるくこづいてそう告げる。
 起こされた方はといえば、しばらく自分がどこにいるのか分かっていないようで、くるりと廻りを見回し、


「・・・・・・えーと。書き込み、みせて?」


 隣に視線をもどすと、にへら、と笑ってそういった。





 一年前期 ーある火曜日の放課後ー





「・・・だいたいお前寝過ぎだろう。いくら母国に昼寝の習慣があるからといっても、酷いんじゃないか?入学して一月たつが、教養はともかく専門の講義で、お前が四限に起きてる姿を見たことがないぞ」
「だ・・だって三時になったらどうしても眠くなっちゃうんだもん!講義室にいるだけ誉めてよ〜!」
「何故そんなことで誉められようとするんだ馬鹿。講義があるときに講義室にいるのはあたりまえだろうが」
 
 心底あきれた声でそういうと、相手は多少不本意だったようで、唇をとがらせる。(大学生にもなってこの反応はいかがなものかとは思うが、それが似合う男でもあるのが複雑なところだ)

「ヴェー・・でもなんで俺が毎回寝てるの知ってるの?隣に座ったの今日がはじめてだよね」
「・・・・・・・っお前が毎回寝てることくらい、このクラスの半数以上は知ってるぞ。大体寝るならそんな前にすわるなよ」


 そういえば何故自分はこの男が毎回寝ているのを知っているのだろう、と面食らったのを隠すように、ぞんざいに答えると、相手は目をみひらいた。


「え・・そうなの!?やだなー教授にもばっちり見られてるんだよねそれじゃ・・でもテスト受かれば単位はもらえるしいっかー。それでさドイツ」
「何だ」
「プリントみせて?」
「断る」
 即答して鞄からリンゴを取り出す。これからバイトに行くまでの中間食用に持ってきたものだ。
 かるく拭いてからかじろうとしたその時、



「なんでさいいじゃん減るもんじゃないでしょー!!俺生化学苦手なんだよおねがいーーー!!!」



 ヴェーーー!! 
 臆面もなく横から抱きつき、意味不明な泣き声をあげる同級生に、思わずリンゴを取り落としそうになった。


「知るか!!苦手なら尚更起きて聞いとかんか阿呆!!」
「だから三時になると眠くなっちゃうんだってば!!それにカルボキシル基がどうのとか、セリンがどうのとかホント苦手なんだもん!!ねぇお願い今度パスタごちそうするからさー!!」
 俺パスタ料理上手いよ?ホント上手いよ!?フランス兄ちゃんに上手いって言われたくらいなんだからホントだよ!!

 そういいつのる男をひっぺがし、

「お前の料理の腕の事なんかきいてないだろう!!・・・ほら!」
 どうせ見てもわからんと思うぞ。

 そう言いながら講義のプリントを差し出すと、イタリアの顔がぱぁ、と明るくなった。

「ありがとうドイツ!!ホントたすかるよ・・・、って、え?」

 一転顔色が悪くなる。


「わからんだろう?」 
 だから言ったんだ、そう言いたげな声音でといかけると、相手はあろうことかその目に涙をうかべて。

「お・・おいイタリア、」
 少なからず焦りを覚えたドイツにかまうことなく、プリントを手に声をあげた。



「ヴェーーーーーーーー!!!なんで書き込み全部ドイツ語なのさドイツのばかーー!!!」
「お前にだけは言われたくない!!!お前だって書き込み全部イタリア語だろうが!!!」



 そんな怒号が響き渡る、ある晴れた日の放課後。




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 やっべぇ楽しい!!(逝け☆
 彼らの学習過程をさらっと書きますと、

 一年 前期 教養(週1で専門) 
    後期 教養(週1で専門)
 二年 前期 教養(週2で専門)
    後期 専門(基礎系)
 三年    専門(基礎臨床統合系)
 四年    専門(基礎臨床統合系)
 五年    専門(臨床実習他)
 六年    専門(臨床実習他)
 
 こんなかんじ。四年から五年になるときに、全国一斉の進級試験(CBT)があります。
 六年の最後に卒業試験と、そのあと国家試験です。

 このお話は一年の前期のつもりで書いたので、ドイツとイタリアはまだそんなに親しいわけじゃないかんじ。
 ちなみに教養と専門はキャンパスがちがうので、彼らは火曜日(専門の日)だけ専門のキャンパスにやってきます。
 普段は他の学部の人と一緒に教養キャンパスで講義をうけてます(´ω`*)


 うちの大学の設定まんまだとかいわないそこ!(ノ`A´)ノ


 うん、プリントに書き込みしながら、
「あーきっとヘタリアキャラがこの講義うけてたら、ドイツはドイツ語で、イタリアはイタリア語で書き込みするんだろうなー」
 と思ったのが発端。



 ちなみにおまけ↓。


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「ドイツ語わかんなくもないんだけどさーやっぱり母国語じゃないからちょっときついんだよね・・・」
「文句があるならプリントを返してもらおうか」
「え、それはダメごめんってばドイツまって持ってかないでぇぇぇ!!」
「あぁもう、わかったから早くうつせ!そして来週は寝るな!!」
「ヴェー・・・それはムリだとおもう・・・」
「お前・・・(脱力)」
「ってドイツこれどーゆーこと?」
「何だ?ーーあぁこれか。ヘモグロビンの中の鉄原子は、元々ポルフィリン平面からちょっとはみ出しててな・・ポルフィリン平面は分かるか?」
「ううん〜」
「・・・だろうな。ストライヤーのこのあたりに・・あぁ、あったこれだ。この平面構造の事をポルフィリン平面という。それでーーって自分できいといてぼーっとするなイタリア!!」
「ひぎゃ!!ご・・ごめんちょっと考え事してて」
「このタイミングでするなと言ってるんだ!説明してやらんぞ!」
「ゴメンってば〜!」
「ったく、続けるぞ大丈夫か?」
「うん。えへへ」
「何にやにやしてる」
「えっとね、ドイツってやっぱり優しいなと思って。だって俺が寝ててもいつも誰も起こしてくんないし。説明も親切だし、俺ドイツ好きだなー」
「!?」



 どこまでも少女漫画的展開、大好物です☆
 この出来事をきっかけに、イタリアはドイツとかぶってる講義ではいつも隣に座ることになるわけですよ。(もうそう☆

 たのしかったのできっと続きますよこのシリーズ。えっへへ。