たまごまごまご このたまたまご このこまごまご たまごのこのこ。











 * case1 Rudwig *





 朝目が覚めたら、目の前にたまごがありました。


 そんな状況を、日々想定しながら生きている人が、一体地球上に何人いるだろうか。


 もし居るというのなら、是非お目にかかりたい。

 そして、是非アドバイスをお願いしたい。



「・・・・俺に一体、どうしろと・・・」



 枕の隣に、ころん。と転がっていた卵ーータダの白い卵ならばこんなには困惑しなかっただろう、その美しい鴇色ーーを呆然とみつめ、青年は朝早くから途方に暮れた。



 しかしいつまでも卵と見つめ合っているわけにはいかない。
 彼も社会人のはしくれ、仕事が彼の出社を待っているのだ。


「ふむ。」


 卵を手にリビングへと移動し、おもむろに卵をテーブルにつけ、コマの要領で縦に回してみる。



 しゅっーーーーごろごろごろごろごろ


 ごろん。


 卵は、軸をぶらすことなく数回まわった。


「と、いうことは、生卵か・・・」

 ベッドの上で潰さなくてよかった、と自分の寝相を誉めながら、次の段階へと思考を移す。

 手の中の卵はほんのりと暖かく、(生卵という事はベッドの中で無意識に暖めたわけでもあるまい、そんな事をすれば潰れる)しかし食用の卵同様 冷蔵庫に入れるというのも、もし何か貴重な生物のものならば、中の胚が死んでしまう。


「食用の卵は昨日買ったばかりで不自由していないしな」


 とりあえず、孵る卵ならば孵らせてみるか。

「ひとまず食うことはせんから、安心しろ」


 そうつぶやき、元気に孵れよ、と。子供にするように軽く唇を寄せた、瞬間。



「!!?」



 手の中で、光が弾けた。










 その光の明るさに、白く霞んだ視界の端で、自分の手の中から飛び出した光の塊が、リビングのテーブルの上に置いてあった パソコンに向かって飛んでゆくのが、かろうじて見えた。




 そして、視界はホワイトアウト。



「な・・なんだったんだ・・・?」



 徐々に色彩を取り戻し始めた視界の中、はっとして手の中を見るとーー卵は、跡形もなく消えていた。



「閃光弾・・?いやしかし熱くもなんともなかったしな・・もしや夢か?幻覚、ということもありえるが」
『マスター』
「後頭葉の一過性の虚血で幻を見る事もある、と確か本で読んだな」
『ねぇ、マスター』
「しかし前回の健康診断でも血液凝固系は問題なかったはず・・」

『マスターってば!!ねぇ、気付いてよ!!』

 無意味に手をみつめたまま、状況の分析を始めていた彼の思考を、必死ともとれる声色が遮った。

「・・・声?一体、どこから」

 一人暮らしの部屋で、テレビやラジオ以外に音声を発するものといえば。



『あ、やっと気付いた! おはようございます、マスター!』


 はっとして目線をやった先、パソコンの画面がいつのまにか起動していて、



 その画面の中央で。





 3頭身くらいの、何かが、嬉しそうに手を振っていた。







「・・・・・・・・・・・・・・」

『あの、孵してくれてありがとう!オレ、一生懸命お手伝いするから!』

 よろしくね、と笑う、画面の中の顔を、呆然とみつめ、


(なんだコレは。何故パソコンが勝手に起動しているんだ、真坂あれか、新種のウイルスか!?ウイルスバスターは入れているはずだがいやでも流石に卵から 孵るようなウイルスには対応していないかもしれん、最悪の場合このパソコンは廃棄・・いやしかし仕事のファイルが!!!)


「・・・・・・・・・・夢だといってくれ・・・・・・」


 布団からでて5分、こんな理由で布団に戻りたくなったのは生まれて初めてだ。
 彼はそうつぶやいて、疲れ切った顔でソファに転がった。



『あ、あの、マスター?どうしたの?』

「どうしたもこうしたもあるか・・朝からこんな、新種のウイルスをくらう様な心当たりはまったく無いというのに・・・」

『ウイルス?ーーでも、ノートン先生は、居ないって言ってるよ?』

「だから、お前ーーー」
 そこまで応えて、はた。と動きが止まる。



 自分は今、誰と会話をしている?



『あ、待ってね今ノートン先生が一応チェックするって』

 声に続いて、ウィーーー、という微かな起動音。

『・・・うん、ないみたいだよ?マスターはいつも適切なウイルス対策をしてるって』

 そう、続く、その声。



「・・・・・・・・・・・・・・お前、何だ?」



 恐る恐る、問いかけた声への返答は、




『オレはね、マスターのアシスタントをしに来ました!出来ることがあったら何でも言ってね!』




 にこ、と笑ったその顔は、可愛らしいそれで。
 ーーどうせ、初期化か廃棄かするのなら、こいつの言い分を聞いてからでも良いか、と思ってしまったのは、ようするに。



 やけくそ、だったのかも知れない。

















「それで?まあ、ウイルス云々は置いておくとしてーーお前は一体、何なんだ?」


 吹っ切れたようにソファに座り、とりあえず湧かしたコーヒーを飲みながら問うと、画面の中のソレは、だーかーらー、と腕を振りながら答えた。


『さっきから言ってるじゃん。マスターのアシスタント!』

「・・・その、アシスタントってのは、具体的には何をするんだ」

『何をって・・・マスターがして欲しい事でオレに出来ることなら何でもするよ。変なウイルスが来ないように、ノートン先生のお手伝いとか、ファイルの整理とか、 なんでも。マスターがそれで喜んでくれるなら』

・・・要するに、ちょっと便利な秘書ソフトみたいなものをインストールしたと思えばいいのか・・?

「ふむ。しかしパソコンの中を勝手にいじられてはたまらないしな・・」
『そんなことしないよー、それじゃタダの迷惑ウイルスじゃん』

 心外だ、と頬をふくらませる仕草は子供のようで、まぁぶっちゃけ見ていて癒されるものはあるが。

「・・・もし、俺が何もするなといったら?」

『・・・・・・・それが、マスターの命令なら、なにもしないよ。でも、でもさ、挨拶くらいは、こうやって話すくらいはいいでしょう?』
 マスターの話し相手、とかそんなんでもいいんだ。何か、特別な仕事をくれとも言わない、だから


『オレの存在を、なかった事にはしないで。卵の中のオレに『孵れ』っていってくれたのはマスターだよ』


 そう、いいつのる姿が、何故かとても必死に見えたので。
 ルートヴィッヒは笑い飛ばすことも出来ず、


「わかった。・・・害はなさそうだし、話し相手くらいなら」


 そう、答えることしかできなかった。






 こうして、ルートヴィッヒはそのパソコンの中に、卵から孵った『何か』を飼うことになったのだ、が。






『ひぇー!なにこのスケジュール!マスターちょっと働き過ぎだよ!?たまには休まないと!!』

 スケジュール管理ソフトを開いたそばから小さな手が画面に伸びてきて。

「こら!勝手に触るなとーー」
『マスターが責任感があって几帳面なのはよくわかってるけど、せめて土日は休んでよ。こんなスケジュールじゃ身体もたないよ?』
「・・・今は大事な時期なんだ。それに、なぜ会ったばかりのお前に俺の性格がわかる」

『だってマスター、オレに『仕事手伝え』とか『仕事のファイルをつくっておけ』とかいわないもん。大抵の人なら仕事の負担が減るって思いそうだけど、マスターは そうじゃない。自分の仕事に責任と誇りをもってるからでしょ?』
 あ、でもオレも表つくったり絵かいたりは出来るからね、言ってね!特に絵描くのは得意なんだ!

 そう言ってえへん、と胸を張る小さなソレを、ルートヴィッヒは思わず凝視していたらしい。

『ま・・マスター?どうしたの?オレ何か変なこと言った?』

 さっきまで自信満々で胸を張っていたのに、途端にそわそわするその姿も、見ていて飽きない。

「いや、何でもない。仕事は、今抱えている分が終われば一段落する。普段はここまで詰めてないんだ、安心しろ。ーーそれよりお前、絵以外になにか得意な事は?」

『あの、あのね、歌!歌うの、得意だよ!色んな歌いっぱい知ってるし、大好きなんだ!』

 そう答えた瞳が、キラキラと輝いていて、

(本当に、歌うのが好きなんだなこいつ)

 思わず顔がほころぶ。

「それじゃあ、仕事に行く支度をする間、朝のBGMを一曲頼めるか?」

『ーーもちろん!』



 そして流れ出した歌声の美しさに、思わず持っていたカップを取り落としそうになったのは、なんだか悔しいので秘密にしておく。








 コレ 書いてたら思いついた、たまごイタネタです。
 case 1 とか言ってるけど、続くかどうかさっぱりぷーわかりません☆ むしろ誰か書いてry
 こんなアシスタントソフトあったら、速効でインストールするよ!(`・ω・´) という伊都がお送りしましたー。

 09.07.15 伊都

 ブラウザ閉じて戻ってクダサイ。